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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第62話 花冷え(その6)】 

 南町定廻り同心久坂に呼び出された兵庫が戻るのを、皆が道場で待っていた。
「話は何でしたか」と常吉が皆の思いを尋ねた。
「奉行所はやはり常八を泳がせていたようですが、釣人の影におびえる魚のように、泳いではくれなかった。そこで泳がせてくれと頼まれたので見張りを止めます。ただ皆のこれまでの見張りは無駄では無かったようですよ。奥医師早川江雲の話を聞かせたら感謝していましたからね」
「先生、見張りの仕事を止めると、飯を食い終わったあっしらは何処へ何しに行けば良いんですかい」
「常吉さん、乙次郎さん、仙吉さん。皆さんは十分手柄を立てたのですからがっかりしないで下さい。継志堂のことですが久坂さんが用心は続けて欲しいと言っていましたので、守りの喧嘩支度をして、今日中に継志堂に詰めて下さい」
「聞いたか、乙、仙吉。喧嘩だ」
「常吉さん、やることは喧嘩とたいして変わりませんが、けっしてこちらから先に手を出さないで下さい」
「分かって居ます。これでも先生の弟子のつもりです。後の先を取ることは心得ています」
「奥村先生や桜田さんには、もう少し相手の様子が分かってからお願いすることになるかも知れませんので、その時はお願いします」
「その話ですが鐘巻さん、先ほど口封じの話が出ましたが、継志堂にはその様な者は、今は居ません。口封じの為に狙われるとすれば明日、出牢する五人ではありませんか。五人を守るには襲う相手の人数以上の者が居ないと難しいので参加させて頂きたい」
奥村の云うことには一応筋が通っていた。ただ、日中に出牢する者を徒党を組んで襲うのは考えにくかった。しかし、奥村の様子に居心地の悪さを感じていた兵庫は、
「お言葉有難う御座います。明日のこと宜しくお願い致します」と受け入れた。

 継志堂のことで物騒な話を済ませた兵庫は、道場南西の角で仕事している建具屋の建吉に歩み寄った。
「健吉さん、ご苦労様です。洒落た障子がだいぶ出来ていますね」
「亀吉さんに無理を言って、南北の切妻面には上下四段の敷居や鴨居を取り受けて貰い、そこに上る足場も出来、捗(はかど)って居ます」
「切妻全面が障子張りの家は日本広しと云えども、この道場だけですよ」
「その様な仕事をさせて貰い、有難いです。ところで、先生の御用は何でしょうか」
建吉は兵庫が何かを頼みに来たと察知して、問いかけ、切りだし易くした。
「申し訳ないのですが、須田町に薬屋を開くのですが、戦の時に将兵に携帯させる傷薬を入れる、これほどの大きさで深さ二分ほどの小箱の見本を一つお願いしたいのです」
と手で箱の大きさを見せながら頼んだ。
すると、
「先生、それは私が作りますよ。亀の仕事を見ているのも飽きましたんで」
と元宮大工で隠居の彦次郎が名乗り出た。
「彦次郎さん、言い難いのですが、箱に入れる薬自体の値が一朱ですから箱の値はもっと安くないと箱を売ることに成ってしまうので宜しいでしょうか」
「白木のままで、数作れば草鞋代で出来ますよ。」
「それなら、買う者、売る者が喜べる商いが出来そうです」
「先生、戦用は桐箱でも構いませんが、あっしらの軟膏の入れ物でしたらハマグリで十分ですよ」
「そうですね。アサリとシジミばかり食べていたのでハマグリのこと忘れて居ました」
「べつに催促したわけではありませんからね」
笑いが起こった。

Posted on 2014/09/30 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学