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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第61話 結び直し(その32)】 

【鐘巻兵庫 第61話 結び直し(その32)】
「もしここに残って、もも殿の浮かぬ顔を見続けるのも、また、三浦友五郎と名を改め部屋住み者として暮らすのも、私にとっては闇で御座います。さらに大村の家に戻っても先に明かりは見えません。それが離縁され、更に勘当されれば形の上ではその闇から抜け出せます。抜け出した先に光明が見えるかですが、実は見えるのです」
「どういうことだ」
「鐘巻先生は私と同じ部屋住みでしたが、家を飛び出し苦労の末、今は人も羨む美しく才長けた奥様と暮らしておられます。先生の元には三食を共にする者が二十名を越え、侍衆の六人を含め暮らしの扶持を戴く者は十数名は居ると聞いております。鐘巻先生は闇から抜け出し今では多くの人に光明を与えるまでに成って居ます。私は心ならずも鐘巻先生と別れここに居ますが、全てのしがらみを捨てることでまた会えるのです。これが私に見える光明です」
源次郎が穏やかな笑みを見せた。

「三浦殿、聞いての通り。わしは源次郎の望みを叶えるため離縁状を書くことにするが異存が御座れば申して頂きたい」
「源次郎殿には申し訳ないことをし続けた。願いを叶えてあげて下さい」

 山口瀬左衛門は別室に行き、暫くすると紙切れを持って戻ってきた。
「源次郎殿、すこし文句を加えた」と紙切れを手渡した。

婿、源次郎儀、家に居つかず放蕩無頼、これ皆、娘、ももの至らぬゆえ。婚姻の継続は叶わぬと推察し離縁いたすものなり。
嘉永六年二月十一日
源次郎殿
山口瀬左衛門 花押

 離縁状に目を通した源次郎は
「お心づかい有難う御座います。御上への届け出が済み次第、丙丁(へいてい)に付す(燃やすこと)ことにいたします」
「そうしてくれ」
「皆様方、多々ご迷惑をお掛け致しましたことお詫び申し上げます。それではお暇致します。

 屋敷を出た源次郎は付け馬役の音吉と堅川沿いを歩いていた。
行きに背負った荷をすっかり置いて来た源次郎に音吉が、
「源次郎さん、私の今日の手当ては七両二分の中から頂くことに成って居たんですよ。参ったなぁ~」
「私が働いて、利息を付けて返しますよ」
「いいですよ。芝居の筋書きが変わり出番が来ませんでしたからね」
今回の事については相手方も結構悩んでいて、皆が話し合っている所に私が割り込んだのです。
「真打登場と云う塩梅(あんばい)ですね」
「下手な人情話でしたが、良い客に恵まれました」

 源次郎は船宿浮橋に寄り、借りた刀を返した上、山中碁四郎夫妻に上首尾を伝え、礼を言った。
そして駒形に戻った。
何も語らぬ前から源次郎の笑顔が願いの叶ったことを物語って居た。
「音吉さんも上がって下さい」と帳場番をしていた兵庫が誘った。
「吉原は此れから忙しくなるんで、失礼させて貰います」
「それでは、ちょっと待ってください」
兵庫は帳場の引き出しから小判を一枚取り出すと、
「無駄足だったのでしょう。これで勘弁して下さい」と裸金を手渡した。
「何だい、あっしの無駄足は先生の読み筋でしたか。あっしは遠慮しませんよ」
と云い、一両を拝み、袂に入れると出て行った。

Posted on 2014/09/13 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学