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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第61話 結び直し(その37)】 

 嘉永六年二月十三日(1853-3-22)の朝、朝駆け、子供たちとの朝稽古、朝飯と手順通りに時の流れに乗った兵庫、甚八郎、源次郎は、三ノ輪に頼んである具足金物を入れる空の櫃(ひつ)を背負子(しょいこ)に縛りつけていた。
前回の引き取りでは、思わぬ買い物があり中身の入った重い八つの櫃を三人で運んだのだが、今回は十六人分の鎖帷子、籠手、脛当てなどを三つの櫃に納めて引き取る予定なのだ。
その代金は十八両なのだが、兵庫は内藤に更に九十両、八十人分の具足代を用意させていた。
これは今の三日(みっか)に十六人分の仕事では目標の千人分作るには半年も掛かってしまうため、人を増やし急いでもらうための気付け薬に使うためだ。
鎖職人の鉄五郎は金物仕事を手広くやっているのだが、過去に具足仕事で損をさせられたことから、人手を具足に回すのを躊躇っている気配を兵庫は感じていたのだ。
若い侍の兵庫のことは信頼しているのだが、千人分の具足仕入れに兵庫が鉄五郎に払う金は細かく言うと千百二十五両にもなるのだ。
この様な大金を兵庫が持って居ると考える者はまずいない。
兵庫としては持ち金の全てを具足の仕入れには仕えないため、仕入れた具足金具を着用できるように仕立て上げ、それを売った金を仕入れに回そうと考えている。
鉄五郎としては兵庫の思惑通りに具足が売れるのを見るまでは、むやみに増産が出来なかった。
半月先の売り出しの結果を待たずに増産させるには、何よりも小判を見せ、渡すに勝るものはなかった。

 空の櫃を担いだ兵庫以下三人が三ノ輪の鉄五郎の店に着くと、店番をしていた鉄五郎の妻・花が愛想よく迎えてくれた。
「鐘巻様、取りに来させて済みませんね。今運ばせますから・・」と奥に姿を消した。
 空櫃を下ろしていると、鉄五郎が職人を連れて出て来た。
「鐘巻様、空櫃をお願いします」
持参した八つの櫃が帳場に積み上げられると、職人がその櫃を持って奥に戻っていった。
「鉄五郎さん、今日はいくつ引き取れますか」
「お約束の十六人分です」
「それではその分として十八両を」と稽古着の懐から財布を出し包んでおいた小判を掴み出し渡した。
 中を確かめた鉄五郎が少し大きめな声で「確かに」と言った。
暫くして櫃が三つ運ばれて来た。
「お確かめください」
甚八郎と源次郎が櫃から取り出し先ず数え、数え終ると様子を確かめ詰め直していった。
「先生、数も揃い、品も良い出来です」
「鉄五郎殿ありがとうございました。一つお願いが在ります」
「どの様な」
「増産をお願いしたいのです。その為に、今日は九十両を持参いたしました」と腰の帯にぶら下げて来た袋を叩いた」
「九十両分と云うと八十人分の具足を造れと云うことですか」
「いいえ、この金は万が一支払いが滞った時の担保です。当面は作って頂いた分については、その都度支払います。ですから人を増やし、せめて今の倍の仕事をお願いできませんか」

Posted on 2014/09/18 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学