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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第62話 花冷え(その3)】 

 次に兵庫は板の間で仕事をする水野小次郎、中西要蔵、山内勇太郎の三人を見守る服部仲明に、
「先生、この店では医者相手ばかりでなく、下痢、熱さまし、腹痛など家に常備する置き薬も用意して下さい」
「そのつもりです。今、三人が秤、一服分ずつ包んでいるのがそれです。もう三人はいくつかの薬を作ることが出来るようになりましたよ」
「それは頼もしいですね。ところで先生、私は戦準備をすることになる大名家や大身の旗本に傷薬、血止め薬、化のう止め、油紙、包帯などをお抱え医師に売り込もうと思っているのですが、準備をお願い出来ませんか」
「用意するのは構いませんが、お抱え医師は怪我をしない所にいる殿さまを診るのが仕事です。最前線の将兵を見ませんよ。売り込みでしたら戦費をはじく戦奉行に売り込んだら如何ですか」
「なるほど、戦奉行ですか。それで一人の銃創の手当てをする薬の見積もりは如何程になりますか」
「戦場(いくさば)での手当ては薬を塗り包帯を巻くぐらいしか出来ないでしょう。高いことを言っては買っては貰えません。応急手当用として軟膏、油紙、包帯を小包にして兵に携帯させるようにまとめて、一分程度が払える限度でしょう」
「それで利益が出ますか」
「薬自体は一朱も掛からぬでしょうが、塗り薬と入れる油紙を敷いた桐箱にさらしを二裂きしたものがいくら掛かるかは分かりません」
「ちなみに薬を入れる箱の大きさはどのくらいでしょうか、一つ作ってみようと思うのですが」
「小判が納まる大きさで、深さは二分(約6mm)も在れば十分です」
「分かりました。それでは駒形に戻ります。桜田さんを連れて帰ります。そちらの御三方、店の中を窺う者が居ますので、刀を傍に置いてください。夜は修業先から戻って来た弟子を送り込みます」

 継志堂を出た兵庫はやって来た道を戻りながら、
「桜田さん。継志堂は元山形屋と云う薬種問屋でしたが、看板が継志堂に変わるまでの経緯(いきさつ)を御存知ですか」
「皆さんの話を聞きながらおぼろげにまとめた話をすると、今の主、益次郎さんが子の患いを治すために、店を担保に金を借りたが、子は亡くなってしまった。掛かった医者が偽医者で金を借りたのが、鐘巻殿がお住いの家で阿漕(あこぎ)な金貸しをやって居た者とか。金貸しは他に人殺しの罪が在りお仕置きされ、偽医者は江戸所払いになったとか、これまでの話は数年前に鐘巻殿が訳ありの駒形の家を買うまでの話ですが、大筋は宜しいでしょうか」
「流れは合って居ます。続けて下さい」
「これからは今年に成ってからの話ですが、鐘巻殿が駒形の家の裏庭に道場を建てることになり、長らく放置しておいた裏庭の物置の中身を調べて居たら、長持の中から子供の位牌と売り物の蝋燭が出て来たとか。町方に頼み位牌の持ち主を探して貰ったら、今、私が住んで居る所に居た元蝋燭屋の益次郎夫妻と判明。益次郎夫妻が位牌を受け取りに来ると、鐘巻さんの浪人相手の武勇伝を見せられたとか。位牌を受け取りに来た益次郎さんは鐘巻さんの強さを見て敵討ちを頼んだとか。仇とは江戸所払いになった筈の偽医者で、舞い戻っているのを棒手振りの商いをしていた益次郎さんが見つけ、その羽振りの良さに我慢できなくなったためと聞いています」

Posted on 2014/09/27 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学