10 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.» 12

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第63話 衣紋掛け(その8)】 

 思わぬことから慎重に進められていた源次郎の縁組が披露され、これまでの事情を知る者を喜ばせ、昼飯後の話に終止符を打った。

 引札配りの者が道場を出て行くと、千葉道場へ出かける者が、己の鎖帷子を持ち出してきた。
「支度は稽古着では無く、戦場(いくさば)に出る時と同じように今着て居る物の中に着込みましょう。脛当ても付けて下さい。竹刀は私の鉛入りをお貸しします。襷(たすき)は用意します」

 兵庫は内藤から引札を数枚貰い懐に入れると、内藤、大村源次郎、鳥羽伏見之助の四人で駒形を出た。
「先生面を忘れていますよ」
「全部、押上に運んでしまったのです。代わりに鉢金を持って来ました」
途中、船宿浮橋に寄り山中碁四郎を加え、内神田市橋家上屋敷の西隣に玄武館の看板を掛けた千葉道場に入った。

 道場に上がった兵庫は、皆を入り口近くに控えさせ、稽古休みの者に、
「初めての者ですが、何方にご挨拶をすれば宜しいでしょうか」
「それでしたら、上に居られます千葉栄次郎先生が宜しいかと存じます」
「有難う御座います」
 刀を源次郎に預けた兵庫は上座近くまで行き座り、栄次郎と目を合わせ一礼した。
栄次郎が礼を返すのを見て、膝行(しっこう)し一間ほどまで寄り、
「拙者、駒形にて鎖帷子、籠手などを商い致します鐘巻兵庫と申します。本日はそれらの使い勝手を確かるため道場をお借りしたく参りました。お許し願いたいのですが」
と云い胡坐に座り直すと同時に袴を少し上げ、脛当てを見せた。
「面白いことを成されますな。鐘巻殿のことは聞き及んでいますが、お連れの皆様の御腕前は・・・」
「朋輩の山中碁四郎は霞塵流の三代目で御座います。奥村弥太郎殿は我が師としてお迎えした方で火水流を、他の二人は目録程度で御座います」
「これは良い機会です。当方からも目録者を出しますので、試合ではなく稽古をお願いできますか」
「有難い申し出で御座います。ただし目録者二人については大怪我をさせたくありませんので鉢金ではなく通常の面を被ることをお許しください」
「当然のことです。人を集めますので」
「それでは、こちらも用意を」
と云い、兵庫は懐から出した引札の上に包んできたものを乗せ
「まことに些少で恥ずかしいのですがお受け取り下さい」と栄次郎の前に差し出し一礼して下がった。

 兵庫が戻り控えていた者を立たせると、それが合図かのように稽古をしていた者全員が引き下がった、
襷を掛け袴の股立ちを取り、支度を済ませた奥村、兵庫、碁四郎、鳥羽、源次郎の順に出て行き、上座から下座に間を置き立った。
そして、
「火水流、奥村弥太郎で御座る。お見知り置きを」
「地天流、鐘巻兵庫で御座います。宜しく」
「霞塵流、山中碁四郎です。宜しく」
「修業中の鳥羽伏見之助です。宜しくご指導のほどお願いします」
「同じく修業中の大村源次郎です。宜しくご指導のほどお願いします」
対する相手を師範代らしき者が呼ぶと、出て来て奥村から源次郎までの五人の前に立った。
顔合わせをするとその場に座り面を被ったり鉢金を着け、再び立ち上がった。
「稽古始め」の声が掛かり、気合が飛び交い始まった。

 奥村は立ち位置をあまり変えず相手の打ち込みを払い、重い打ち込みを返した。
兵庫は素早く僅かに動きながら相手の竹刀をかすらせ、流れた所を打った。
碁四郎は相手の目をくらますかのように前後左右に動きながら、相手の動きを混乱させ、そこを打った。
力の差は歴然だった。
鳥羽と源次郎は相手と互角に打ち合いながら、打たれる痛みに耐えていた。

 最初の手合わせが終わった後は自由稽古となり、他流との稽古を望む者が絶えず、一刻の間ほとんど休みを取らずに稽古をし、明日も来ると云うことで具足試しの稽古が終わらせた。

Posted on 2014/11/30 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学