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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第64話 生きる(その5)】 

「朝五つから夕七つまでの仕事とは何でしょうか」
「当面は、皆さんが住む家、修業する道場を建てるのですが、何のための道場を建てるかは相談して決めます」
色々と聞きたいことは在っただろうが、寝間に布団を運び込んでいた内藤達が道場に戻って来た。
「支度が出来たようです。今日は旅の疲れを取って下さい。積もる話はあるでしょうが継志堂の御三方は早めに須田町に戻って下さい。それと山中さんに皆さんが来られたことを伝えて下さい」

 今日、新発田来た者たちが道場から割り当てられた部屋へと場所替えると、兵庫たちは明日の段取りを確かめ始めた。
「内藤さん、明日の朝はこちらに残って頂きます。奥村先生と保安方のどなたかお一人に子供たちの引率をお願いします。残った方は朝稽古に来て下さい。なお、駒形での剣術稽古は当面出来なくなりますので、道具類は押上に置いて下さい。私は、朝稽古後に駒形に参り朝飯後、新発田からの皆さんと押上に戻り、その日は押上に留まります。鳥羽さんも出来れば押上に詰めて下さい」
「分かりました」
「押上への移動の際、布団十五組も運びますので、大黒屋から戴いた押上の一台では足りませんので、また大黒屋で借りて下さい」
「分かりました」
「それでは私は押上に引き上げます。常吉さん、お仙さんのことは頼みます」
「先生、頼まれなくても兄ぃはしますよ。こと女なのことでは」
「仙吉、最後の一言は多いぞ」
最後には冗談も出て来たが、皆にとって忙しい一日が過ぎていった。

 嘉永六年二月二十八日(1853-4-6)の朝が明けようとしていた。
兵庫が今は道場となった広い裏庭で筋を伸ばし、それが終わると重い鍛錬棒を振っていた。そこに稽古着姿の山中碁四郎がやって来た。
「新発田からやって来たそうですね」
「はい、三家、十五人です」
「浮橋の部屋を使って貰って結構ですよ」
「その内親孝行をして貰うため、一家ずつお願いします」
「分かりました。それではやりますか」
兵庫と碁四郎の激しい稽古が始められた。
その気合が明け六つ前に、寝ている子供たちまで目覚めさせ、暫くすると十歳になった北島象二郎が稽古支度してやってきた。
「先生、お早うございます」
「本当にお早うですね。山中さん象二郎を頼みます」
東の空の赤味が増し、明け六つの鐘の音が聞こえて来た。
稽古を碁四郎に頼んだ兵庫は家に入った
「お琴、駒形に運ぶ物は何ですか」
「二升入ったいずみです」
いずみとは飯の入ったお櫃を入れる藁製の保温道具である。
「分かりました」
「先生、物干しを作りますので、あの衣紋掛けと吊り金具を貸して貰えませんか。あれが無いととても干し切れませんので」
「そうですね、十五人ですから一人三枚としても四十五の衣紋掛けが必要になりますね」
「はい、今後も必要になるので、高倉さんと菅原さんが来たら、お染さまから五十ぐらい頼んで貰います」
「私が言ったら断れるでしょうが、お染さんなら断れないでしょうね」
二人の話が台所で手伝いをしている女たちに聞こえたのだろう、笑い声が聞こえて来た。
兵庫には笑い声が、ここに新しく来る三家を迎え入れる用意が出来たものと思いながら外に出た。

 何時もの様に大人たちとの朝稽古に加わっていた兵庫は、駒形からやって来て朝稽古を済また子供たちが駒形に戻るのを見て、稽古を止め乙次郎と仙吉を呼んだ。
「何でしょうか」
「申し訳ありませんが、引っ越しに使う大八車と炊き上がった飯を駒形に届けて下さい」
「分かりました」
今日の始まりを、朝稽古をしながら確かめ反芻した兵庫は、目覚めてから一刻(約2時間)経った五つ少し前には駒形の道場に座って居た。

Posted on 2014/12/31 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学