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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第66話 認知(その3)】 

 子供たちとの暮らしを優先させることにした兵庫は、三月七日明け六つ前の暗い庭に出て身体の筋を伸ばしていると北島縫の息子象二郎が稽古支度をして出て来た。
「象二郎、ついて来なさい。外を走ります」
「その言葉に、象二郎が喜んだ」
と云うのは北島親子が兵庫の元に来たのは先月の二十三日で以来十数日、この押上の寮の中で暮らして居た。
駒形からやって来る子供たちは象二郎とも遊ぶが、時間が来れば帰ってしまい、同じ年頃の男が居ない寮に残され、寂しい思いをしてきていた。
 外に出た兵庫と象二郎が北十間の川岸を西へゆっくり駆けはじめると、遠くから駆け寄って来る者の姿が見えた。
「高倉さんに菅原さんだ。皆、剣術が好きですからね」
「私も皆さまの様に強く成りたいです」
「今から稽古を続ければ成れますよ」
高倉と菅原が近づき、
「待って居ますよ」と云い、すれ違った。

 横川に架かる業平橋に近づくと、こんどは常吉が姿を見せた。
「先生、どちらまで」
「横川沿いを堅川まで行き、東へ四つ目まで行き戻って来ます」
そして、竪川沿いを四つ目に向けて走って居ると、後ろから足音が近づき、
「お先に」と云い、山中碁四郎が追い抜いて行った。
兵庫と象二郎が押上に戻ったのは、明け六つの鐘が鳴った後だった。
その時までに集まり稽古をしていた者は他に根津甚八郎が居た。
兵庫は稽古相手のいない碁四郎に歩み寄り、
「碁四郎さん、鳥羽さんはどうなって居ますか」
「ほぼ手筈の通り下屋敷に入りましたが、明け六つ前の外出は未だ許されていないそうです。でも、もうすぐ来るでしょう」
「やはり、宮仕えは堅苦しいですね。象二郎、山中さんに稽古をお願いしなさい」
兵庫は稽古を見に出ている新発田から来た男たちに、
「剣術稽古をお望みでしたら、一分のご負担で、面・籠手・胴・稽古着に稽古袴・竹刀二本の斡旋をします。ご希望の方は朝食後、日本橋・内神田三島町の鹿島屋にご案内します。一分については次回の給金支払時に差引きます」

 遅まきながら本所林町の新発田藩下屋敷を明け六つに飛び出した鳥羽伏見之助が息を切らして駆け込んで来た。
「鐘巻先生、お願いします」の挨拶で兵庫と鳥羽の稽古が始まった。
兵庫は鳥羽と打ち合う中で、守りの弱さを幾つか見つけるとそこを徹底的に攻めた。
その攻め方は先ず鳥羽が反応できる速さから始め、少しずつ早めていった。
受けることが出来たものが、受けきれないことが続くと、当然工夫を試みるが上手くはいかない。
兵庫との稽古で鳥羽は迷いに落ち込んだ所で、兵庫との稽古は駒形からやって来た子供たちの声で終わった。
「碁四郎さん、鳥羽さんをお願いします」

鳥羽を碁四郎に任せた兵庫は子供たち全員と竹刀を交え叩かせ、褒め、兄として振る舞った。
そして稽古が終われば幼い子供たちは母である志津の元へ駆けていった。

 子供たちと触れ合った兵庫は、霞塵流の山中碁四郎、火水流の奥村弥太郎の三人で挑んでくる鳥羽、高倉、菅原、甚八郎、常吉、乙次郎、仙吉等を相手に、その強さを見せつけた。
暫くして、先ず常吉が独立して始めた仕事の為に抜け、そして子供たちが駒形に戻る時間が来ると、奥村と保安方の乙次郎と仙吉が抜け、最後に山中碁四郎が戻って行った。
これまでだとこれで稽古が終わるのだが、今日から甚八郎が押上詰めとなり、兵庫も商いの仕事から解放され、駒形へ行く時間が遅くなり、稽古を止める理由が無くなった。
そして、稽古が続けられ、この時点で明らかに実力不足の鳥羽が、息つく暇なく攻められ、疲労困憊に陥った。
「朝稽古はこれまで」の兵庫の言葉にほっとしたのは、鳥羽一人では無かった。

Posted on 2015/01/31 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学