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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第79話 流れ(その13)】 

 奥村が出かけて暫くすると、雨が上がり始めた。
「乙次郎さん、仙一さん。子供たちと日本橋まで町見物をして来て下さい」
雨で閉じ込められて居た子供たちだけでなく、乙次郎と仙吉も喜んだ。
「先生は留守番ですか」
「はい、役人がそろそろ来そうなので居所を変えたくないのです」
「南町ですかい」
「いいえ、目付筋です」
「あ~、黒船の置き土産ですね。未だ片付いていないのですか。それじゃ~留守番お願いします」

 子供たちが出かけ、雨が上がり、雲が切れ日差しが射し始めた。
明るくなった通りに人影が立ち止まり格子に掛けられている看板を見ていた。
具足商いを閉店したため掛けられている看板は“継志館養育所”だけとなっていた。
影が動き、戸口に影が二つ、そしてもう一つ立った。
「此方に鐘巻様が居られると聞き参りました。八木三郎の妻・紗江と申します」
道場に居て、八木三郎の名を聞いた兵庫が出てみると、若妻と幼子そして白髪が混じり始めた初老の夫人が疲れた様子で立っていた。
幼子を歩かせ、大人は荷を背負い、ぶら下げていた。
「鐘巻です。八木殿、災難に見舞われましたな。今日は・・・」
「初めまして。私は亡き八木三郎の妻・紗江と申します。これは倅の佐助と母の文で御座います。下谷七軒町の屋敷を追われましたので、おすがりに参りました」
「分かりました。もう少しお尋ねしたいので、先ずは、荷を下ろしてお上がり下さい」
「有難う御座います」
三人は表座敷に腰を下ろし、息を吐いた。
「追われたのですか。どの様な咎で?」
「国が困難に見舞われて居る時に、裁きを受ける身で在りながら、謹慎せず出歩き事件に巻き込まれ死んだことが、御上に仕える身とし不届きと云うことでした。佐助はまだ二歳と幼く、跡取りとしての届を出して居なかったため、断絶の憂き目にあいました。生前の主人が鐘巻様は 頼りになるお方だと申して居りましたので、勝手ながら参りました」
「つかぬことを伺いますが、相手方の裁きについて何か聞いて居ますか」
「皆さん亡くなられたと伺っています」
「そうでしたか。八木様、大したことは出来ませんが、自立出来るようになるまで養育所で頑張って下さい。ただ、駒形の養育所は女が暮らすには不向きですから、押上の養育所に移動して頂きます。その前にお昼は?」
「この子にお願いします」
子に食事を与えない親は居ない。誰も食べていないことを暗に言ったのだ。
「夕餉も近いので、昼の残り物を、朝餉としてお食べ下さい」
三人は内藤夫妻に紹介され、軽い昼飯を食べると兵庫に連れられ押上に向かった。
兵庫の両手と背には女たちが持って来た中から重い物が選ばれ、託されていた。

 兵庫は、駒形で目付方の下島が裁きの話を持って来るのを待って居たのだが、裁かれた方が先にやって来てしまった。
兵庫は、これまでの下島との話の中で、裁きの結果、家名を失った者の家族が路頭に迷わぬよう、養育所で受け入れるよう頼まれた気がしていた。
しかし、路頭に迷う家族とは八木一家ではなく、八木を襲った御家人の家族と思っていた。
被害者である八木家を幕府が取り潰したのは、黒船に翻弄された向ける相手の無い怒りが向けられたとしか思えなかった。

 押上に着くと、三人の事を志津に話したうえ、預け、兵庫は駒形へ戻って行った。
今度待つのは新発田藩上屋敷に出掛けた奥村弥太郎の帰りだった。

 皆様の激励が明日への力に成って居ます。

Posted on 2015/11/30 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学