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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第80話 雨宿り(その18)】 

 浮橋を出た兵庫は神田川に架かる柳橋を渡った。そこには両国広小路の雑踏が在った。
その雑踏を挟んだ向かい側の米沢町のどこかに竜次の家がある。
広小路を横切った兵庫の足は、迷うことなく米沢町の南、薬研堀に向って居た。
竜次が薬研の竜次と呼ばれて居るからだ。
そして思った通り、竜次の家は薬研堀に面した米沢町三丁目に在った。
間口二間の二階建てで、表の開けられた戸口、腰高障子の中央には下手な字で竜と書かれていた。

 兵庫は押込み時の段取りについて船を使うことを考えていた。
浮橋に集まった者たちが薬研堀まで陸路を移動すると、身の隠しようもない広小路を横切らねばならない。それが真夜中の移動だとしても寝苦しい夏の夜、何処に人目が在るか分からない。押込みに行く身としてはとても採用できないのだ。
 そのてん船なら人目が避けられるうえ、船上で身支度も出来、また荷物も運べるなど利点も多いからだ。

 兵庫が薬研堀の様子を眺めて居ると、背後から名を呼び合う声が聞こえてきた。
振り返ると、商家の者でも職人でもない、一見して人様に寄生して暮らしをする、世に云う、ならず者が話をしていた。
その場を離れた兵庫の足は、馬喰町の旅籠・十文字屋を目指していた。
馬喰町の通りを、四丁目、三丁目と行くと二丁目に十文字屋の新しい軒看板を出す旅籠が見えて来た。
兵庫の記憶では、そこには旅籠・上州屋が在ったのだが、何かが起きたのだろうと看板を見ながら近づくと、背後から駆け寄る足音がして兵庫を追い抜き、そして十文字屋に飛び込んで行った。
その男は、先ほど薬研堀で見た男の一人だった。

 竜次の家と十文字屋の所在、そこを行き来する者の存在を確かめた兵庫は、用が済んだと引き返そうと一瞬思ったが、足はそのまま歩き続けていた。
足は本国町四丁目まで来て止まった。定廻り同心・平岡との繋(つな)ぎ役の為吉に会うためだった。
平岡とは毎日昼に浮橋で会うことに成って居るが、いつ何時急用が生じないとも限らないからだ。
だが、裏店を訪ねると為吉は留守だった。
仕方なく兵庫は平岡から頼まれた、俄か捕り方になる者が使う棒と刺股を調達することにした。
向かった先は、剣術道具を購入して来た三島町の鹿島屋だった。
久し振りに兵庫が来たことを番頭から聞いた店主の徳兵衛が奥から嬉しそうに出て来た。
「徳兵衛さん、ご無沙汰しています。今日は六尺の棒と刺股をお願いに参りました」
「棒と刺股ですか。まるで捕り方ですな。」
「はい、捕り方を演じることに成りました。それで棒を二十、刺股を十お願い出来ますか」
「棒は直ぐに用意出来ますが、刺股は取り寄せに成りますので明日になりますが・・・」
「それで結構です。用意出来たら山中さんの船宿に届けて下さい。支払いは養育所で明日します」

 注文を済ませた兵庫が再度為吉の所に向かった。

 皆様の激励が明日への力に成って居ます。

Posted on 2015/12/31 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学