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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第81話 女三人(その6)】 

 表の通りまで出て内藤を見送っている兵庫の背後から「先生」と女の声が掛かった。
振り返ると、十軒店の二番、八百屋を任せている中西たつと百姓がやって来た。
「何でしょうか」
「先生、米三さんが助けてほしいと云うので話を聞いて頂けませんか」
米三は押上村の百姓で、出来た青物を持って来て、十軒店の八百屋で買い取ってもらって居るのだ。
米三にとっては市場に持って行く手間が省けたうえに値決めも悪くはない。八百屋の方も市場で仲買を通すより安く買えるため双方にとって都合がいいのだ。
「何ですか、米三さん」
「先生、ここの所の日照りで水やりが追いつきません、このままでは青物が育ちませんので水運びを手伝って頂けませんか」
「水運びですか。水場から畑までのは距離はどのくらいありますか」
「凡そ一町(109m)ぐらいです」
「何往復も担いで運ぶのは大変です。これからの事も在るので樽で運ぶのではなく、竹で樋(とい)を作り、つないで流してみませんか。上手く行けば女・子供でも手伝えますよ」
「水で困っているのは私だけでは在りません。運ぶ手が足りなくて困って居たのですが女・子供でも手伝えるのでしたら、他の百姓にも教えましょう」
「それではこちらで樋造りをしますので、米三さんは水をためる樽を出来るだけ多く用意して下さい」
「分かりました」
米三は嬉しそうに戻って行った。

 兵庫は常吉、茂吉そして佐吉の三人に声を掛け、呼んだ訳を話し、一町を超える長さの樋を青竹で作り、樋を空中に保持する馬を用意して水場近くから畑まで水が流れる様にして、女子供でも出来る水運びにしたい。
「分かりました。先生、あとは私たちで何とかしますので任せて下さい」と常吉が言った。
常吉は兎も角、この手の仕事については茂吉も佐吉も得意で、器用にやってのけるから、侍の兵庫が居て遠慮されるよりは居ない方が捗(はかど)るのだ。
「それでは、お任せします」
兵庫が道場へ向かうのを見送った三人は簡単に役割を決めると、それぞれが散って行った。
乾物屋を空けることに成る茂吉は、八木紗江に店を任せ、分からないことが在れば隣の味噌屋の主・水野よねに聞くようにと云い、佐吉も常吉も店を暫く空けることを云い。辰五郎の竹林へと向かった。

 午後、昼飯後子供たちとの水練を一刻(2時間)ほどし、その後剣術稽古をしていると、内藤が来て浪江と話し合い、それが終わると百姓の米三やって来た。暦も七月と成り日が短くなり始めて居た。
道場に立った兵庫が相手の甚八郎に気合いを送ると七つ(四時頃)の鐘の音が帰って来た。
剣術好き同士が時の過ぎて行くのを惜しみつつ稽古を続けて居ると、常吉が戻って来た
「もう、そんなに時間が経ったのですか」
兵庫は常吉が戻って来るのはもっと遅いと思って居たのだ。
「先生。百姓が集まって居て自分たちでやるからと云うので戻って来ました」
「そうでしたか。百姓仲間で協力することは良いことです。ご苦労さんでした」
この後、兵庫を煩わせることは起きなかった。

 ←のボタンを押すと幸せになりますよ。わたしが。

Posted on 2016/01/31 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学