01 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.» 03

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第82話 堕落(その10)】 

 柳原町に着くと油問屋の宝来屋も古着屋のやなぎやも暖簾を出していた。
どの商家の前も掃き清め、水を打った跡が在るのだが、宝来屋の前だけが乱れていたのは昨日と同じだった。

 兵庫が暖簾をくぐり入ると、彦六の護衛役でやなぎやに泊まった常吉と万次郎が帳場に腰を掛けて居た。
「待って居ました」
「お待たせしました。しかしお二人さん。その様に待って居られると、怖いお兄さんもお客も入って来ませんよ」
「そう云えば、いつもなら冷やかし客の一人や二人が来るのですが今日はまだ来ませんね」と帳場に座って居るお勝が笑った。
「話が在ります。彦六さんはどちらですか」
「奥ですよ」
「では、そちらで話を聞いて下さい」
 奥へ行くと彦六が仕入れた古着の選別をしていた。
「皆袷ですね」
「立秋も過ぎました。そろそろ用意しておかないと儲け損ないますからね。ところで何ですか」
「彦六さんとは直接関係ないのですが、彦六さんが迷惑を受けたやくざ者とは違う、もう少し怖いやくざ者が隣の宝来屋に居たのです。気に成りますので、見張ることにしました。それを、二人に頼みに来たのです」
「そうですか。私達の護衛は結構ですから」
「ついでと云っては申し訳ないのですが、監視の都合上、暫く泊まらせていただくことで護衛もさせて頂きます。それと、少しは眠って貰わないと昼の見張りが出来なくなるので、夜だけでも土間に犬を置かせて貰えないでしょうか」
「結構ですよ。犬はお勝も好きですから」
「それで、私達は何をすれば良いのでしょうか」と家の中で出番を待って居た常吉が進み出た。
「お二人には川向うから宝来屋を見張って貰い、出て来るやくざ者の動向を追って、何をしようとしていのかを早く突き止める手助けをして下さい。日中は二人で、夜は交互に頼みます」
「やくざ者の顔が分かりませんが」
「店にあまり熱心でない小僧が居ます。手懐けて人や店の情報を得て下さい。源次郎さんは番頭に働きかけるそうです。けちらずにこれを使って下さい」と持ってきた巾着を手渡した。
「それでは、油を買いに行って来ます。彦六さん、油入れは何処に在りますか」
「待っていて下さい。持って来ます」
彦六が台所へ入れ物を取りに立つと、兵庫が
「今、源次郎が隣にいるかもしれませんので、もし会ったら私が此処にいることを告げて下さい」
「分かりました」

 常吉と万次郎が宝来屋に入ると、持って居る壺を見て小僧が
「いらっしゃいませ」と声を掛けて来た。
「菜種油は一合いくらだ」
「四十四文です」
「あれ、商売敵では四十文だぞ、四文も違うとなると少し歩いて向こうに買いに行くことに成るぞ」
「木戸屋がまた安売りしているのですか。困ったな、あちらの御客には内緒ですよ」
小僧が見た先には番頭らしき男と話している源次郎が居た。
「分かって居るよ。変なことを言うと怖いお兄さんが出て来そうだからな」
「鬼吉さんなら、磯五郎親分を見送りに船宿に行って居ますから安心して下さい」
「なんだい、親分は帰ったのかい。会いたかったのだがな」
「下総に戻り子分衆を集めて戻って来るそうですから、その時会えますよ」
「喧嘩か、新門とか?」
「いいや、かねまきとか言って居ましたよ」
「そうかい、油、二合くれ。八十文だぞ」
 油を買った常吉と万次郎は宝来屋を出、源次郎が出て来るのをやなぎやの前で待った。

 ←ボタンを押す。情けは人のためならず。

Posted on 2016/02/29 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学