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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第85話 新盆(その7)】 

 中西家の迎え火も八木家と大して変わらぬ質素なものだった。
両家の主は斬られて死に、残った者に辛い思いをさせた。質素にならざるを得なかった。
二家の迎え火を見終えた子供たちを、自分たちも参加する鐘巻家の迎え火が待って居た。
 そして兵庫が鐘巻家の者と認めた十九人が広間に集められた。
「今日は先年、子を産み亡くなった私の妻・幸を迎える他に、鐘巻家の一員であります佐吉さんと彦次郎さんのご先祖をお迎えします。さらに養育所の基礎を築き亡くなられた十一人の魂をお迎えする火を焚きます。迎え火からお迎えするロウソクに火を移すのは私、佐吉さん、彦次郎さんと志津の四人にします。子供たちはここに戻ってから私が取った火からさらに小さいロウソクに火を移し皆のご先祖様をお迎えします。何が在ったにせよ私たちが今、ここに居られるのはご先祖様が在ったからです。感謝しましょう」

 何故か千丸を負(お)んぶした兵庫を先頭に志津、佐吉、彦次郎、子供たちが続き、広間を出て行った。
母屋を出、表口を抜け十軒店の外に全員が出た。
そこには迎え火に使う最低限の物が準備され、縁台の上に置かれていた。
お松が種火から附木に火を移し、兵庫に手渡すと、兵庫は附木の火が燃え上がるのを待ち、積まれている苧殻(おがら)に歩み寄り、座り苧殻の下部に火を点けた。
乾ききった苧殻はパチパチと音を立て燃え上がった。
ロウソクを入れた箱を持ったお竹が、兵庫、志津、佐吉、彦次郎と廻り、ロウソクを取らせた。
しかしロウソクに火を移す順は志津、佐吉、彦次郎で兵庫が最後になった。
志津、佐吉、彦次郎のロウソクに火が点った後、兵庫が
「皆で呼ぼう。私と手をつなぎ火を囲め」と左手をお玉に差し出した。
兵庫、お玉、小夜、千夏、お竹、お松、大助、己之吉、亀次郎、音吉、金太、虎次郎、熊五郎、観太、正三と手をつなぎ終ると、
「正三、私の帯を掴め」
正三が兵庫の帯を掴むことで、迎え火を囲む兵庫と直接・間接につながった円陣が出来た。
「火を移すぞ」
ロウソクを持つ兵庫の右手が燃える迎え火に近づき、そして火が燃え移って来た。
「さあ、皆もロウソクに火を灯すため部屋に戻るぞ」

 部屋には祭壇が用意されていた。
祭壇奥中央に志津が太いロウソクを立て、続いて、その両脇に佐吉と稲次郎が中太のロウソクを立てた。
そして兵庫が祭壇の前列中央に太いロウソクを立てた。
「さあ、このロウソクには皆のご先祖様も来ています。一人一人自分のご先祖様を小さいロウソクに呼び、このロウソク立てに立てなさい」
こうしてお玉から正三までが小さいロウソクに火を移しロウソク立てに立てた。
そして兵庫はロウソクを握らせた千丸の手を持ち、火を移しロウソク立てに立てた。
「それでは、皆で手を合わせましょう」と志津が手を合わせると皆が倣った。
「皆、日に一度は拝みに来なさい。みな部屋に戻っていいよ」
「母上様・・・」
「何ですか、お玉」
「お玉のロウソクは小さいから直ぐに無くなってしまいます。火が消えたらどうなるのですか」
「小さいロウソクが消えた時、お玉のご先祖様は大きいロウソクに戻ります」
「大きいロウソクが消えた時はどうなるのですか」
「周りに消えない火が在ればそこに移ります。ですから後でロウソクの火を使い炭に火を熾(おこ)し灰の中に埋(い)けておきます。だから心配しないでね」
「はい」と返事をすると立ち上がると、お玉の質問で足止めを食らった子供たちも立ち上がり部屋から出て行った。

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Posted on 2016/04/30 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学