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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第86話 餞別(その20)】 

 先導を綱吉に任せると云った兵庫だが、養育所を出てからは終始先頭を走り、その後を綱吉が追っていた。
その狙いは新しく保安方に加わった綱吉を、養育所の外に住む関係者に顔合わせさせることで、綱吉にも保安方の用をこなすために人間関係を知ることは必要なことだった。
しかし、そんなことは常吉や乙次郎に一言いえば綱吉を引き回してくれるので、兵庫自らやる必要は無かった。ただ兵庫自らやった方が良い相手もいた。
それと普段と違うことがもう一つあった。
それは、子供たちを含め全員が竹刀を持たせたことだ。兵庫は何かを意図していた。

 兵庫は先ず亀戸の堀川源次郎の家を尋ねた。
そこでは明日の養子縁組の主役・金太を仲人をする吉衛門や妻のおふじに合わせ、源次郎やその妻・道にはこれから色々と顔を合わせることに成る綱吉合わせると云った塩梅だった。
 次に寄ったのが亀戸の古着屋・“やなぎや”だった。
まだ、暖簾が出されていなかったが戸を開けると、顔を見せたのは彦六だった。
「彦六さんこちらに戻りましたか」
「はい、ばあさんが知り合いの多い亀戸が良いというので、水野様にお願いして柳原の店と交換しました」
「古着の商いについてもご指導をお願いします」
「暖簾を出す頃に、久美さんが通ってきます」
「そうですか、時折保安方の者を立ち寄らせますので、困ったことが在りましたら遠慮なく言ってください」
保安方四人が店に入り、綱吉は名乗り挨拶をした。

 そして次に寄ったのが柳原町に古着屋“やなぎや”の暖簾分けされた店だった。
入ると水野家一家が次々と顔を見せた。
「先ほど、亀戸のやなぎやに寄ってきました」
「飯を食ったら、向島の仕事に粟吉と行きます。その時、久美を送って行くのが日課に成って居ます」
「頑張ってください。それと金太が明日、木場町の材木問屋に養子に入ることに成りましたので、ご挨拶に参りました」
「それは目出度い話ですね。金太さん、おめでとう」
と水野賢太郎、妻のよね、粟吉、久美、岸から短い祝辞を金太は貰った。
「有り難うございます。これまで色々とお世話頂き有り難うございました」
「それでは。私たちは、これから深川の永代寺までの朝駆けです」
 店を出た兵庫は隣の油問屋宝来屋に寄らずに堅川に架かる橋を渡った。
「この先は綱吉さんに任せます」と云い、兵庫は先を綱吉に譲った。
そして
「これから綱吉さんの元主・重吉さんの店・涛屋に行きます。そこでは、文吉のことを正三と呼ばないように。分かったな」
「はい」
 地元に入った綱吉は、兵庫が通ったこともない道を通りながら、永代寺門前町の運送業、涛屋を訪れた。
思っても見なかった子供たちの甲高い声が店の表から聞こえてきて、しかも留まっている。
これに先ず気が付き現れたのは一枝だった。
「鐘巻様に綱吉。何ですか?」
「稽古前の朝駆けでこちらまで足を延ばしました」
「お待ちください。旦那が鐘巻様にお礼を致さねばと申しておりました」
 一枝が家の中に入り一呼吸、中が騒がしくなり、男たちが飛び出して来た。
「鐘巻様、どうぞお入りください」
「有り難うございます。ただいま稽古中で、こちらを折り返しの場所に選びました。しばらく休み戻りますので、ここで失礼いたします」
「稽古中でしたか。鐘巻様、色々とお心遣いを頂いたようで、何とか全うな一歩が踏み出せそうです。有り難うございます」
「それは結構なことです。それでは戻る前に子供たちに邪気を払わせましょう」
「お払いですか。お願いします」

 ←ボタンを押す。情けは人のためならず。

Posted on 2016/05/31 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学