06 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 08

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第89話 実り(その6)】 

 朝稽古が終わり、駒形から来た子供たちは母代わりの志津に挨拶し、深川から来た子供たちには「ご飯食べたら来るから、遊ぼうと」と云い、駒形へ駆け戻って行った。
 広間で鐘巻家の一同に深川からやって来た十人の子供たちと保安方の綱吉を交えた朝の食事が始められた。
ここで鐘巻家一同とは、鐘巻親子に養育所の子供たちと養育所の番をする佐吉、宮大工の彦次郎を加えた者たちのことだ。綱吉は独り者で身寄りもないため、その時々、居心地の良い所に膳を運び食べるのが習わしと成って居た。
 皆が膳に着いたところで、兵庫が、
「綱吉さん、今日、深川永代町に行く前に、蕎麦を打って下さい」
「分かりましたが・・今後のことも考えると、蕎麦打ちの跡取りを考えて頂きたいのですが」
「考えています。保安方の全員に蕎麦打ちを覚えて貰うことにしますので、先生として仕込んでください」
「兄さんたちが、あっしの云う事を聞きますかね」
「あっしの云うことではありません。あなたは先生です。先生の云う事を聞かないような人は保安方に居ないと思いますが。先日は駒形の子供たちの云う事を聞いたから、深川洲崎十万坪で佐助ら十人を捜せたのです。深川で鷹が飛んできて投げたマムシを攫って行きましたが、あの時私は印字打ちで鷹を打ちマムシを解放させました。その印字打ちは老人から習ったものです。誰でも先生に成れるのです。ただし、教えてやるなどと高飛車に出てはいけません。綱吉(つなきち)さんは綱吉(つなよし)さんではないのですから」
「それそれ、先生、私の名前を変えて下さい。以前人別届け出に書く名前を綱吉(つなきち)としたら、大家がこの名は五代様と同じ字だから読みが違っても届け出には使えないということで、私は未だに無宿者なのです」
「話はわかりますが、最初に親が出した届け出は通ったのですか」
「大家が気を利かして仮名をつかったそうですが、子供時はそれで良かったんですが、もう大人です。いつまでも仮名を使ってはいられませんよ。お願いします」
「名前は兎も角、無宿ではいけませんので、この子らの届け出を出す時に、一緒に出しましょう。話が逸れましたが、網吉(あみきち)さん蕎麦打ちの件、お願いしますよ」
「あみきち?」
「綱とよく似た字に網があります。如何ですか」
「似ている字だと助かります。色んな物に名を書いたりしていますんで直し易い。後で字を教えて下さい」
「分かりました。蕎麦を打ち終わったらね」

 朝飯が終わると、佐助は一人深川へと出かけて行った。
その訳を部屋に戻って来た兵庫に志津が教えた。
「金太が居ないことに気付き、その訳を問いただすとは、さすが浮浪の子供の頭に成るだけのことは在ります」
「と云うことは、佐助を納得させれば済むと云う事ですね」
「そうなると思うのですが、大人を疑ることが習慣に成って居ますから、一つ納得させても続きが在るかもしれませんが、それはそれで楽しみですね」

 暫くすると、駒形から男の子がやって来たのだろう甲高い声が聞こえて来た。
「それでは母上様を解放しましょう」と兵庫が冗談を言い、部屋を出て、縁側から下駄を履いて庭に下り道場へ向かうと子供たちがやって来た。
「兄上、新門の三郎さんと来ました。話を聞きたいそうです」と観太は云いながらすれ違い志津の所へ向かった。
兵庫が、道場で深川から来た子供たちと話している三郎の所に行くと
「先生、ご無沙汰しています。こちらに稽古に来ている者から、佐助らが居たと聞いたので参りました」
「そのことですか、ここはこれから子供たちの遊び場に成りますので、場所を変えましょう」
と云い、兵庫は三郎を子供たちの様子が見える広間の縁側に誘った。
その二人の前を、志津に挨拶を終えた子供たちが横切り、新しい仲間の居る道場へ駆けて行った。

 ←ボタンを押す。情けは人のためならず。

Posted on 2016/07/31 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学