11 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 01

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第92話 転進(その10)】 

 昼飯を食べに広間に集まった者たちに、兵庫は案内した。
「今日から文吉と巳之吉が八丁堀の兄の屋敷に住み込み剣術修行と人との付き合い方を始めます。文吉と巳之吉は明日から八丁堀から南八丁堀大富町蜊河岸の士学館道場まで二人で通うことになります。同様に皆にも明日から、目的の在る外出を許します。ただし行先と用を言い二人以上で出かけることと、恥ずかしい行為はしないこと。遊びで出る場合は、見える、聞こえる、直ぐに戻れる範囲にします」
「兄上様、女の子は?」
「十軒店の前付近で遊ぶのは構いません。外出の時は大人の付き添いを原則としますが、ただし日中に元町の屋敷や向島の象二郎の家に行くのは子供だけでも二人以上で行くのなら許します」
少しばかり自由を手にした子供たちに笑みが浮かんでいた。
「今後、他の皆にも文吉や巳之吉と同じ修行をしてもらうことに成ると思います。そこがどんな所か知りたいでしょうから、男の子だけですが八丁堀と修行先を見て貰います。食事後稽古仕度を済ませ道場に集まりなさい。ただし、下駄ばきで」

 いつもより食べるのも、片付けるのも早く昼飯は終わった。
子供たちにとって午後は午前より自由なことが出来る。しかし遊んでばかりはいられない。いずれは養育所を出て行かねばならない。その時のために女の子は料理、裁縫などの他に三味線などの芸事を身に着けたいと思って居る。とくに年長の者は手伝う用事も多く、遊ぶ暇などなかなか取れなかった。
 そして、養育所では年長のお松とお竹が志津に呼ばれ部屋に消えて行くのを、稽古の身支度を済ませた兵庫が見ていた。

 道場に男の子十六人が集まって居た。浮浪上がり古参の者・八人、新参の者・七人と姓を改めた村上象二郎だった。大人は兵庫の他に保安方の乙次郎と鬼吉だった。
留守を、甚八郎と常吉に頼んだ一行十九人は押上の養育所を出て行った。先ずは駒形の養育所に入り、八丁堀暮らしのために文吉と巳之吉の私物を入れた柳行李が持ち出され、それを乙次郎と鬼吉が背負った。
 ほとんどが子供たちとは言え、十九人の剣士の行列は人目を惹くのは、いつもの通りだった。
一行の歩みは先頭を歩く兵庫の歩みで、その歩みを阻むのは無く、八丁堀の組屋敷に着いた。屋敷では出迎えの支度をしていたが、まさか十九人もで押しかけると思ってはいない。
出てきた、姉の玉枝と母が目を丸くし、ついて来た幼い幸太郎が玉枝の後ろに隠れた。
「母上、姉上。こちらがお世話頂く者で、大きいのが文吉で小さいのが巳之吉です」
「鐘巻文吉で御座います。お婆様、伯母上様よろしくお願いいたします」
「鐘巻巳之吉で御座います。よろしくお願いいたします」
「母上、姉上。我らはこれより志學館道場へ参り、桃井先生に文吉と巳之吉のことをお願いして参ります。道場から戻る頃には兄上もお戻りでしょうから、その時皆様に挨拶いたします」
「分かりました。行ってらっしゃい」
「その前に二人の荷物を部屋まで運ばせてもらいます」と云い、兵庫は二人の荷物を受け取ると、上がり奥に消えて行った。
そして兵庫が戻って来ると、玄関を下りた幸太郎が巳之吉の手を握って居た。
「おっ! これは相性が良さそうですね」
「本当に」
「巳之吉、幸太郎を抱き上げて、かか様に戻しなさい」
少しばかりぎこちないが幸太郎が巳之吉の手から母・玉枝の手に渡った。
「それでは行って来ます」
一行十九人が門外へと出て行った。
それを見送る玉枝の顔に喜びの笑みが浮かんでいた。

 ←ボタンを押して頂けると、励みになります

Posted on 2016/12/31 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学