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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第96話 鬼の居ぬ間に(その9)】 

 半蔵の子分・ならず者の八人が出て行き暫くすると暮れ六つの鐘が鳴った。
それが切っ掛けか、奥から月代を綺麗に剃り、髷をいなせに曲げた男が出て来た。
「婆さん、今日はもういいぞ」
「はい、半蔵様」
そして婆さんが留吉の所へやって来た。
「お客様、この茶店は了源寺さんの門の開閉と合わせておりますので、間もなく閉めます。雨が降っておりますが・・・」
「分かった。やっぱり止まなかったが、いくらか小止みに成ったので雨宿りはこれまでとするよ」と留吉は素直に銭を置き店から雨の中へ出て行った。
雨具の用意はしてきたのだが、少しでも長く茶店に居座るため雨具を仲間に預け、雨宿りのため茶店に入った様に思わせたのだ。

 最後の客が出て行くと婆さんは、茶店の中に明かりを一つ残して消し、外に出た。そして茶店の脇に格納されていた雨戸を運んできて、表開口部の敷居に嵌め、滑らし、六枚の雨戸を入れ、閉め切った。
その様子を了源寺の境内から出て来た者たちも見ていたが、締め出された格好になった婆さんが何処から入るのかが関心ごとだった。
皆が見ていると婆さんは、今、閉めた雨戸の右から三番目の前に行き、戸を押すと戸が開いた。暗くて同じように見えた雨戸だが、くぐり戸が設けられていたのだ。
暗い茶店の中に入った婆さんに明かりの光が当たり動くのが、開けっ放しのくぐり戸から見えた。その動きがくぐり戸に近づき、風呂敷包を持った婆さんが出て来て戸を閉めると茶店から離れていった。
「万吉、婆さんがどこに帰るか確かめてこい」
「婆さんをですか?」
「坊主が関係ないと云っても、鵜呑みにしてはいかん。無駄足を惜しんで後悔することが在るのだ」
「分かりました」と万吉が婆さんを追った。
「留吉、鍵が掛かっているか確かめて・・・」と矢五郎が行った時、先ほど茶店から出て行った男たちが戻って来た。
その人数は十人に成って居た。
「皆さん、東都組は今の十人と、色男の半蔵を合わせた十一人です」と留吉が先ほど茶店で見聞きしたことを元に言った。
「色男? 見たのか」
「はい、月代も髭もきちんと剃った男でした。区別はつきます」
「そうか、それは収穫だった」と矢五郎が褒めた。
しばらく沈黙が続いた。
「人数と半蔵の顔が判りました。あと何を?」と仁吉が矢五郎に尋ねた。
「万吉が戻ったら話す」
その万吉が戻って来た。
「何処だった」
「目と鼻の先の阿部川町の裏店で、木戸を入った右側の長屋の最初の角部屋でした。二部屋ですよ。茶店の婆さんとしては上等な長屋でした」
「婆さんは半蔵が悪党だと知って雇われているのだ。半蔵としては止められては困るのだ。店を閉じたら茶店を借りられなくなるからな」
「なるほどね」
「ところで、若い者が宵の口から閉じこもるわけはない。必ず出てくるから手分けして、茶店に戻るまでの金の使い方を見届けてくれ。金は在るか」
「旦那、私らも若いのです。その辺の抜かりは御座いません。と云っても」
「そうか、後は頼む」
参道の店は茶店同様、了源寺の門が閉まると、店の暖簾を仕舞う。その店の軒かげに身を潜めていた六人から一人が抜け出て傘を広げた。
中川矢五郎だった。

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Posted on 2017/03/28 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学