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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第95話 金木犀(その1)】 

 八月三十日、九月一日と鐘巻兵庫は京橋銀座に元南町奉行所同心の中川彦四郎と出向き、京橋銀座の両替商・宮古屋で実際に起きた事件を基にした“斬られ彦四郎“と題する浮世絵九百枚をかなりの高値で銀座に建ち並ぶ両替商に売った。
これ自体はこちらのいい値で売り切ったのだが、良いことばかりではなかった。
浮世絵販売には他に事情が在ったのだ。
それは、事件で重傷を負ったが、ただ一人の生き残りとなった中川彦四郎を狙う者が居ると奉行所仲間から伝えられたことで生じた。
その刺客は二人居て一人は五百旗頭(いおきべ)伝十郎といい、凡その面体も分かったが、もう一人は後に伝十郎の兄だと判るまで、何もわからなかった。
中川から相談を受けた兵庫は、隠れるのではなく身を相手の前に晒し、早く決着をつけることにし、傷を負った彦四郎に、己が描かれた浮世絵の販売と称し、事件の在った京橋銀座を巡り歩かせ、五百旗頭を誘ったのだ。
これも狙い通り五百旗頭に似た賊が現れ彦四郎を襲ったが、その抜き打ちの一刀が鞘走った直後、たまたま通りかかった北村博文の腰を切った。そこで遅れて抜刀した彦四郎が刀を賊に突き付け動きを制したところを、賊は怪我をさせた北村に斬り倒されたのだ。賊は検分結果五百旗頭伝十郎と分かった。
 そして翌日、北村が傷の手当てに行った木挽町の医者宅で、医者と共に殺害されているのが見付かった。あとで明らかになったことだが犯人は北村が斬り倒した五百旗頭の双子の兄で、犯行の訳は弟の仇討ちと、宮古屋事件での生き残りである彦四郎に接近するための変装代稼ぎだった。
編み笠を被り立派な武家に化けた五百旗頭兄と彦四郎は京橋の上で遭遇、初太刀を受け浅手を負ったが、切り返し重傷を負わせ捕らえたのだ。
ただ、彦四郎にも兵庫にも禍根が残った。
関係のない北村と医者が彦四郎を狙っていた者に殺害されてしまったことだった。
その時点で彦四郎が出来たのは、北村の身内が遺体を引き取りに来た時に、その身内に困ったことが在れば力に成ると、事件を取り扱った奉行所同心の中田菊一に頼むことぐらいだった。
もし、手に負えない困難が在れば数日中に何か話しが届くだろうと思って居た。

 嘉永六年九月三日(1853-10-5)は、昨日の午後に始められた己の肖像画の肝心の顔の部分が未完のため、自室に座らされていた。
 その日の午後も間もなく夕七つの鐘が打たれそうな時刻に成って、部屋の庭先に弥一がやって来て部屋の中を覗いた。
これが合図に成ったのか、絵師の大神田太白が
「鐘巻様、暗くなってきました。後は代役を使い絵を描きますので、仕上げの時まで畏まるのは結構です」

 解放された兵庫が縁側に出て、
「弥一さん、その顔は・・儲けましたね」
弥一は己が絵師に描かせた“斬られ彦四郎”の浮世絵が兵庫に全て買い取られ、それが彦四郎等の手に寄り、考えもしなかった高額で両替商に転売されたのを見た。
その転売中にまた彦四郎が襲われ傷を負わされた。これを題材として弥一は“また斬られた斬られ彦四郎”の浮世絵を急遽描かせ、彫らせ、刷らせ売ったのだ。幾らで売ったかは分からないが、二匹目のドジョウが居た様だった。
「はい、お陰様で儲かりました。今日は、お願いが在って参りました」
「何ですか」
「お仲間に加わりたいのですが・・・」
弥一は彦四郎屋敷に同居はしているが、やりたいことをしていた。
「養育所の主な仕事は子供や、弱い人のために働くことですよ。それと今は日に一朱ほどしか手当は払えませんよ。今までの自由な暮らしが出来なくなりますが、それでも良いのですか」
「自由な暮らしは彷徨(さまよ)わなければ飯の種を見つけられない事情のなせる業(わざ)ですよ。無駄足を運ぶのが萬屋弥一の姿です」
「弥一さんは既に暮らしが出来ていたので、無理やり誘うのはと思って居たのですが、お望みでしたら喜んで」
「有り難うございます。何をすればよいでしょうか」
「平常は彦四郎屋敷で皆さんと助け合って頂きますが、特務としては足が達者なので、伝達する用が出来たら、私の代わりに養育所と縁の在る方々の所を回って貰うことにしますので、毎朝、ここに来て下さい」

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Posted on 2017/03/04 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学