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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第95話 金木犀(その7)】 

 暫く玄関先で千丸をあやしていると、大人や子供が姿を見せた。
「薪運びです」「私は炭俵」と大人が言えば、子供は「私は焚き付け」などと運ぶ物を云いながら、炭小屋などへ向かう道に消えていった。
そして荷を持ち帰り勝手口へと、これが何度か繰り返された。
そして、
「竃(へっつい)に火が入りました。湯が沸いたら皆に茶が出るそうですよ」
と云い、仕事を続けた。
その茶の話が悪かったのか、抱いていた千丸が漏らした。
兵庫が千丸を玄関の上がり框に寝かせ、渡された着替えの入って居る風呂敷包を開け、おむつを取り出し、交換をしていると、下駄の足音が背後に聞こえて来た。
大の侍が赤子のおむつ交換している姿を見せるのはさすがに気恥ずかしいので、振り返らず急いだ。
「あの、中川様のお屋敷はこちらでしょうか」女の声だった。
「はい、用でしたら掛かって居る板木を二度強く打って下さい」と振り返らずに千丸のおむつを替え続けた。
“カーンカーン”
板木が思ったより強く打たれたので振り向くと、凛とした武家の妻女が荷を担ぎ持った年寄りの男と若い娘を従え立っていた。
「これはお恥ずかしいところをお見せしました」
「なかなか慣れた手つきでしたので感心しながら拝見させていただきました」
そこに中川の妻・雅代が出て来た。
「鐘巻先生、おむつ替えなら私どもで・・」
「終わりました。お客様ですよ」と云い、兵庫は千丸を抱き、汚れ物を持って玄関から出た。
「中川様ですか、亡き北村博文の妻・栄で御座います。過日は夫の仇に一矢を報い捕らえて頂いたと伺っております。先ずはそのお礼を申し上げます」
「北村様の・・どうぞ、皆様もお上がりください。あの日、お世話になった鐘巻先生もお呼びしますので」
「出来るだけこちら様のことを理解したいので、多くの方々に会わせて下さい」
「今日は子供たちが来ていますので、広間に行きましょう」

 広間には北村栄と連れ二人と面して中川一家五人が座り、北村から見て左側には兵庫、志津、その背後にお玉、鈴、多美が座り、右側には坂崎夫妻、大神田太白、赤松又四郎が座っていた。
そこに茶を御盆に乗せたお松、お竹、千夏、小夜が入って来て、大人たちに茶を配り、お松とお竹は坂崎夫妻お後ろに、千夏や小夜はお玉らの脇に座った。
更に、男の子たちが入って来て兵庫・志津夫妻の背後を埋めていった。
「庭の番士五人を残し、本日この屋敷に居る者が揃った様です。私がこの屋敷を養育所から預かります中川彦四郎です。北村様にはご主人を亡くされご多用中の所、お越しいただき、また先ほどは妻に過分な言葉を頂き恐縮しております」
と、玄関での挨拶に続けるように彦四郎が迎えた。
「改めて申しますが、私は亡き北村博文の妻・栄えて申します。子が居なかったこともあり北村の家は断絶、北村の父母は本家に、私は里に戻ることに成りました。本日は中川様のお言葉に甘え、当家に使えておりました友蔵とたきのことをお願いに参りました」
「分かりました。お二人のことはお任せください」
「有り難うございます。それにしても沢山お子様が・・・」
「先ほどご案内致しましたように、この屋敷は養育所から先日、預かった物です。未だに飯炊きも出来ない状況ですが、本日は駒形や押上の養育所の子供たちの手助けを得て賄いが出来るようにしていた所です。お松、進み具合はどうですか」
「はい、竃が使えることが分かりましたのでご飯と汁は出来ます。十六人分の用意をしていますが、後何人分追加しましょうか」
「北村様、泊まって行かれては如何ですか」
「私は戻るつもりで参ったのですが・・」
「お松三人分追加してください」と彦四郎は遠慮させなかった。
「分かりました。押上に使いを頼んで参ります」
とお松が席を立った。
「話の続きはいつでも出来るので後回しにして、陽の在る内に屋敷内を見ておいて下さい。
雅代、部屋割りをして下さい。子供たちは残っている仕事が在ればそれを片付けて下さい」
こうして新しい仲間
「子供たちは仕事の続き、終わったなら遊びなさい」
こうして広間から人影が消えていった。

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Posted on 2017/03/10 Fri. 06:08 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学