02 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31.» 04

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第95話 金木犀(その8)】 

 広間を出た者たちの行き先は分かれた。
子供たちのほとんどが台所へ行ったのは仕事を続けるためだけではなかった。
男の子たちは台所に下駄を脱ぎ母屋に上がったからで、下駄を履くと、
「庭で遊んでいるから用が出来たら呼んでね」と女の子に云い外に飛び出していった。
かくれんぼ、鬼ごっこ、木登りなどは押上より遊びを楽しめるのだ。

 志津とお玉は肖像画を描いて貰うために太白と又四郎の部屋に行った。勿論、鈴と多美もついて行った。

 兵庫は彦四郎に呼ばれ、千丸を抱き、彦四郎の部屋に行った。
「鐘巻さん、私は北村殿の遺族には出来る限りのことをしてやりたいと思って居ます。栄殿は使用人のことを頼みに来たが自分自身のことは里に戻ると云うだけでした。遠慮しているような気がするのですが、どう思いますか」
「里に戻っては肩身が狭いでしょうが耐えるつもりでしょう。もし引き留めたいのなら、ここでの暮らしが己を殺す忍ではなく、己を生かす夢を持たせるものにしないと無理でしょう。そのためには情けを掛けるより、養育所が感謝できるような役割を与える必要が在るでしょうね」
「鐘巻さん。仕事をしてもらわなければ感謝も出来ないでしょう。あす戻る前に里に帰さずに、ここに呼びたいのですよ」
「そうですね、私や彦四郎さんでは無理な問題です。でも望みは在るような気がします。女の気持ちは分かりませんので、志津に聞いてみます」
「私は雅代に・・」

 千丸を抱いた兵庫が部屋から一歩出ると、屋敷内を案内され、与えられた部屋に荷を置いた友蔵とたきが北村栄とやって来た。
「鐘巻様、奥様は間もなく解放されるそうですよ」と雅代が教えてくれた。
「千丸が喜びます。それまでは子供たちと庭で遊びます」
庭からは楽しさを身体全体で表す笑い声や走る足音が聞こえて来ていたのだ。

 兵庫が外に出ると、表門の守りは仁吉がしていて、兵庫を見るとやって来た。
「鐘巻様、また、二人が入るそうですね」
「はい、娘と爺さんです。今、面談を始めましたから、中川さんから話が有るでしょう」
 そう答えて、兵庫は子供たちの声が聞こえてくる庭に入って行った。

 子供たちは庭に植えられた金木犀の周りで遊んでいた。
その様子が見える母屋の縁側に兵庫は座り子供たちを見ていると、お玉と鈴そして多美が姿を見せた。
「兄上様、やっと終わりました」
「そうか、それでは遊びなさい」
頷いたお玉が、
「じょじょを持ってくるから待って居てね」と云い、姿を消したが直ぐに戻って来た。
「はい、鈴ちゃんの。はい、多美ちゃんの」と二人に藁草履を渡した。
幼子三人が庭に下りようとしているとき、今度は台所仕事を終らせたお松、お竹、千夏と小夜の四人がやって来た。
「お玉ちゃんは終わったの、母上は」
「もうすぐ」
「見に行っても叱られない?」
「平気だよ」
四人は志津の肖像が描かれている部屋に入って行った。
そして暫くすると四人は志津と出て来た。
「旦那様、やっと終わりました」
「お疲れさまでした。庭に下り足腰を伸ばして下さい」
「そうします」
 暫くして、女の子たちと志津が庭に下りた。
それに応じて動きの速い男の子たちの遊びが変わった。と云うよりも動きを止めた。
「皆、かごめかごめをしましょう」志津が
「鬼は誰?」
「兄上も遊びたい顔をしていますよ」
「本当だ」
無理やり、鬼にされた兵庫が、子供たちが作る輪の中に入り座り目を瞑った。
「かごめかごめ籠の中の鳥は、いついつ出やる、夜明けの晩に、つるつるつるつゝぱつた・・・」
兵庫の周りに子供たちの歌声が巡った。
歌に交じって「母上」「兄上」の声が、金木犀の香と共に屋敷内にも流れていった。
「太白先生、鐘巻さんの奥さんを解放したようですね。皆さん、養育所の主夫妻が子供たちと遊んでいるようです。見に行きませんか」と彦四郎が誘った。
皆が腰を上げた。

 ←ボタンを押して頂けると、励みになります

Posted on 2017/03/11 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学