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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第95話 金木犀(その11)】 

 彦四郎が立ち上がり部屋を出ると玄関に行き、番士の仁吉に、
「今日は門の解放は止める、裏にも伝え、皆広間に集まるように」

 朝五つ(8時)の鐘が鳴った
広間に行くと既に、多くの者が朝飯の座に着き主が来るのを待って居た。
暫くすると、庭番方も座り、妻の雅代の席を除き埋まった。
「それでは召し上がりながら聞いてください」
彦四郎屋敷でも人が増えたことで、食事の場が連絡の場にもなって居た。
「先ほど、北村栄殿が参られた。お松、お竹申し訳ないが、雅代の膳と予備膳を部屋に運んで下さい」
「はい」
二人が、膳を運んでいくと、彦四郎が話し始めた。
「栄殿からご両親様の話が出たので、栄殿とともに受け入れることにしました。それで二所帯分の引っ越しをすることに成ります。既に行っている大八一台の他にもう三台必要とのことですが、心残りをさせたくないので四台と八人の人足を送ることにします。
その人足は庭番方の四人と賄い方の留吉とし、残りの三人は押上から出して貰うように頼んできます」
「その残りの三人の件は私が頼んでくる。どうせ一人は千丸の御守りをさせられている鐘巻さんに決まって居る。二人目は恐らく山中殿、となると残りの一つに集まる志願者は多いから難しい仕事ではない」と中川の傷を案じた坂崎が名乗り出た。
「有り難うございます。昼飯はこちらで用意すること、ここに集まるよう伝えて下さい。」
「分かった」
「段取りについてはもう少し詰めるので、食後、引っ越し人足をする者と賄い方はここに集まるように。以上です」

 そして朝食後、膳の片付けが終わった広間に、彦四郎・雅代夫妻、北村栄、庭番方の仁吉、心太、三五郎、万吉そして賄い方となった団吉、更に賄い方のお松とお竹が集まっていた。
「先ず、持参する昼飯として握り飯と香の物などを養育所分として八人分、北村家分として五人分、合わせて十三人分ですが、あと二・三人分多く作って下さい」
「分かりました。押上に十六人分の弁当行李を貸して貰うようお願いして下さい」
「弁当行李だな、分かった。それでは握り飯の方を頼む」
広間から、お松とお竹が出ていった。
「次に行先を確かめるので絵図に集まるように」
開かれた赤坂絵図の周りに頭が集まった。
「ここで御座います。右側にため池を見ながら中ほどまで進みますと左側の御大名屋敷が途切れます。そこを左に曲がり、突き当りの辻番まで進み、そこを右に折れ、最初の辻を左に曲がれば屋敷に着きます」
栄は人差し指で順路をなぞりながら説明した。
「どうだ、迷わず行けるか」
「この辺りのことは、前の主の屋敷が在りましたので存じています」と仁吉が言った。
「それでは、仁吉と留吉、今から押上で大八と弁当行李十六個を借り、一旦戻ってから先発してくれ。準備出来次第後を追う」
「分かりました」と仁吉と留吉が出ていった。
「ところで、ご両親様の足の方は如何ですか。二里はあるでしょうが歩けますか」
「よく庭仕事をしていますので歩けるはずです」
「それは良かった。問題は大八だが。まだ冬の切り米前だから空いて居ると思うが・・」
「旦那問題ありませんよ。背中が開いて居ます」と心太がいえば
「そうか、背負子(しょいこ)か。鐘巻の旦那ならまた修行させられるな」と三五郎が先日の三代目為吉の引っ越しを邪魔した後、背負子を担がせられ、へこたれたことを思い出したのか笑った。

 その笑いが真実になった。
押上に大八車を借りに行った仁吉と団吉が弁当行李を渡すために立ち寄ったのだが、門外に出た心太が大八に背負子の積まれているを見た。
「冗談も云えねぇ。帰りはきつくなりそうだな」
「ああ、皆に覚悟しろと言っておいてくれ」
 仁吉と留吉が出て行くと、間を置かずに兵庫と常吉が稽古着姿で走り、やって来た。
その常吉の背にも背負子が担がれていた。
門内に入って来た兵庫と常吉を迎えた者たちの気が引き締まった。
「鐘巻さん、よろしくお願いします」と彦四郎が頭を下げた。
「任せて下さい。これから大黒屋に行き大八を借り赤坂へ行って来ます。栄殿、お疲れでしょうが花川戸まで付き合って下さい」
「はい、お願いします」
「常吉さんは、昼飯を受け取ったら直接赤坂に向かって下さい」
「溜池を行って大名屋敷の途切れた所を左に曲がり進んで辻番の所を右に曲がり、最初の辻を左でしたね」と栄に向かって言った。
「はい、その通りですよ」
確かめることが無くなった。
「それでは行って来ます」
兵庫、北村栄、心太、三五郎、万吉の五人が屋敷を出ていった。

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Posted on 2017/03/14 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学