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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第95話 金木犀(その13)】 

 浮橋を出ると兵庫は直ぐに栄を駕籠に乗せた。その時の行き先は京橋の橋のたもとまでだった。
急がせたこと、また、登城の武家の流れも終わりに近づいていたこともあり、四つの鐘が鳴る直前に着いた。
「嫌なことを思い出させますが話しても宜しいですか」
京橋は夫・北村博文が殺された場所であることは、遺体を引き取りに来た時に奉行所同心中田菊一から聞かされているから嫌な話の内容は聞かずもがななのだが、栄は
「お話しください」と応えた。
「今わたって居る橋の中ほどで、ご主人の仇・五百旗頭兄が中川殿に抜き打ちで掛かり浅手を与えましたが、遅れて抜いた中川殿の刃で深手を負わされ、捕らえられました。賊は傷の手当てを受け、その日の内に伝馬町に運ばれるのを見ております」
栄は何の後も残って居ない橋の上を見ていたが語ることは無かった。

 暫く歩いた所で兵庫は止まった。
「あの千成屋から彦四郎殿がここに向かって歩いて居た時、左後方から襲われました。その賊の鞘走った刃がご主人の腰に当たり、賊が彦四郎殿と面したところをご主人に斬り倒されました。見事なものでした。その後のことは見届けていませんが、賊の兄がどこかで見ていたのでしょうね。残念なことに成ってしまいました」

 再び歩き始めると、
「鐘巻様と声が掛かった」
中田菊一だった。
「ここで会うとは・・・」
「北村様もご一緒ですので、賊のことを話しておきます。賊は調べを素直に受けていましたが食事を摂らなかったことと、お調べに引き出されるのが傷に触った様で獄死しました」
「中田様、私共一家は中川様の所で養育所のお世話に成ることに致しました。色々と有り難うございました」
「変わった人の集まりのようですが、皆、良い人ばかりだと聞いています。早く馴染んでください」
「有り難うございます。昨日、今日としか在って居ませんが皆さま温かい方ばかりでしたので、お世話に成ることに致しました。今日は赤坂の屋敷を引き払うお手伝いをしていただいています」
「そうですか。大事な時間をとらせてしまいました。ここで失礼いたします」

 中田と別れた兵庫は京橋銀座の端でまた駕籠を拾った
「溜池沿いに赤坂に向かって下さい」
 駕籠は芝口に入ると、堀沿いを虎ノ門、金毘羅宮、葵坂と辿り溜池沿いの道へと進んでいった。
そして大名屋敷の途切れを過ぎ、駕籠が赤坂田町の街並み入った。
「駕籠屋さん、ここで結構です」と駕籠に乗っていた栄が言った。

 駕籠を下りた栄と兵庫、碁四郎が最後の辻を曲がり北村屋敷の在る道に入った。
「あら、どうしたのでしょう」と栄が慌て。急ぎ足で門前へ急いだ。それに兵庫も碁四郎もついて行った。
「どうしたのですか」
閉め切られた門外に空の大八車と養育所からやってきた人足が居たのだ。
「こちらの爺様が、“怪しい輩は入れられぬ”と・・・」
「まあ、申し訳ございません」
栄は門を叩き、
「栄です。入れて下さい」
脇門が開き、友蔵が顔を見せた。
「奥様、申し訳ありません。大旦那様が・・」
「分かりました」と栄は邸内に入って行った。
 庭内から、栄の甲高い声が聞こえて来て、それが収まると門が開けられた。
「どうぞお入りください」と栄が頭を下げた。
「先ずは、ご挨拶をさせて下さい」と兵庫が栄を促したのは、まだ玄関に抜き身の槍を持った年寄りが立っていたからだ。
「分かりました」
 稽古着に刀二本を差した兵庫と碁四郎が邸内に入り、栄に従い玄関に立つ老人に近づいき、一間ほど手前で止まった。
「拙者、大番組頭、山中武左衛門の弟の碁四郎と申します。お見知りおきを」
「拙者、南町奉行所与力、鐘巻兵馬の弟の兵庫と申します。お見知りおきを。なお、縁あって亡き北村殿と見知りと成りました中川彦四郎殿につきましては、賊より受けました傷養生のため失礼するとのことで、我らが名代(みょうだい)で、北村様ご一家をお迎えに参りました次第。ご懸念には及びませんので槍を納めて下さい」
「これは失礼いたした。拙者北村徳三郎、あれが家内の佐和でござる」と云い、佐和が持って来た鞘を穂先に嵌めた。
「皆、お許しが出た。入りなさい」

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Posted on 2017/03/16 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学