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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第96話 鬼の居ぬ間に(その13)】 

 南町奉行所定廻り同心の久坂啓介と岡っ引きの勇三が経師屋為吉の暖簾を潜り、兵庫の待つ養育所にやって来たのは、雨も上がり始めた四つ(10時)頃だった。
柿渋の合羽を脱ぎながら、見知らぬ北村を見た。
「こちらは、隣の継志堂の用心棒をお願いしている北村徳三郎どのです」
「駒形の惨状が隣まで及んで来たと云う事か」
「そのことで、確かめておきたいことが在るのでお尋ねします」
「確かめる? 何のことだい」
「半蔵の住む了源寺の門前町は和尚の話では寺領だそうですが、踏み込まないのはそのためですか」
「そう云っても間違いとは言えない。何かと手続きが面倒なのだ」
「そこに流れ星が押し込んでも構いませんか」
「とうとうやる気に成りましたか。見物するだけだよ」
「それでは、今晩にでもと思うのですが、久坂さんには高みの見物ではなく働いて貰いたいのです」
「出来ねぇ。そこは寺領だと云ったばかりではないか」
「流れ星が押し込んで出来ることは、東都組の者たちが不法に稼いだ金を不法に横取りすることぐらいで、罰することは出来ません。ところが、その金が押し込む茶店には無い恐れが在ることが分かったのです」
「そこに金が無いとなると、別の所に隠していると云うことに成るが、その場所を知って居るのか」
「はい、ただし確実では在りませんが、そこは寺領ではないのです」
「わしに働いて貰いたいと言ったのは、そこに押し込めと云う事か」
「はい」
「もし、そこに金が在ったとしても、その金を流れ星には一文と云えども渡せぬがそれで良いのだな」
「構いませんが、半蔵らはどうしましょうか」
「それは引き取れねぇよ。奪った額にもよるが、皆の首が飛んでしまいかねねぇからな」
「それでしたら、奪った金を返させたら如何ですか。半分でも返せば奪った金は一人当たり十両以下に成るでしょう」
「と云うことは一人当たり二十両奪ったと云うことか、十人だから二百両近くが婆さんの所にあると云うことに成るな」
「あまり使って居ないことを願うのですが。と云うことで半蔵らを引き取って頂けますか」
「裁きに掛ける前に金を返させる分けか」
「はい」
「分かった。阿部川町の自身番に連れて来てもらえれば、引き取るよ。それで婆さんは何処に住んでいるのだ」
「阿部川町の裏店で、木戸を入った右側の長屋の最初の角部屋で、二部屋だそうです。茶店の婆さんとしては上等な長屋だとか。話のまた聞きなので、午後に確認した留吉を勇三さんの所に行かせます」
「そうしてくれ。ところで押し込む時刻は」
「子の刻の鐘の音を聞いてから了源寺を出ます」
「控え場所に寺を借りたのか」
「事情を話して何とか借りました」
「それではわしらは子の刻には片が付くように阿部川町の自身番を出ることにするよ」
「ご足労頂き有り難うございました」

 久坂を見送った後、
「筋書きが変わりましたね」
「今回の話は、町で事件が起きていることを知りながら、見て見ぬ振りをしてきた町奉行所に働いて貰った方が良いと思っていたのです。うまい具合に半蔵と婆さんが親子ではないかと云う疑いが生じたので、筋書きを変えました」
「鐘巻さんらしい変え方ですね。半蔵らが罪を減じられ更生の道を歩けることを願いましょう」
「それでは、段取りが変わったことを皆に知らせに戻ります」
「陽が出て来たようですね。私は用心棒の仕事に戻ります」と北村も腰を上げた。
無用になった傘を片手に養育所を出る兵庫、その後から北村が出た。
隣りの継志堂までの短い並行の歩みで、
「鐘巻さん、今晩楽しみにしています」
「私もです」と応え、去って行く兵庫の背後に近づく男の姿が、北村の目に入った。
兵庫も背後に近づく者の下駄の音を聞き、見えない間合いを測って居た。

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Posted on 2017/04/01 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学