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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第96話 鬼の居ぬ間に(その15)】 

 阿部川町で勇三と平次を定廻り同心の久坂に帰した兵庫は、急ぎ駒形に戻って来た。継志堂の方は雨戸を閉め切ったままだったが、養育所の方は雨戸が開けられ、出入り口の腰高障子は石でも投げられたのか穴が開いて居た。ただ、経師屋為吉の暖簾は出されてはいなかった。
 養育所に兵庫たちが入り最後に入った者が戸を閉めようとした。
「開けたままにしておいてください。臆病者は見られていると思うと悪さをしないものですから」
「何が気に入らなくて、ここまで荒れるのか、解らないものですね」
急遽集めた主だった者たちが、山中碁四郎の言葉に頷いた。
「大よその話は聞かれたと思いますが、今夜予定していました茶店への押し込みは取りやめとします。なお、久坂さんの話ですが、茶店の婆さんこと半蔵の母御は自害しました。金を返すようにとの遺書に、借入帳と金が添えられていたそうです。金は軒賃を取られた者へ配分されると思うので、これ以上の関わり合いは止めます」
「鬼の居ぬ間に起きた軒賃集めは半蔵が鬼の仕置きを受けたことで終わったようですが、この有様を見ると兵さんがこれからも鬼を演じるのは如何なものでしょうか」
「そうですね。養育所は子供たちに自立する能力をつけて貰おうとしています。しかし町には、お礼の為に町の外敵に対して鬼を演じたのが結果的に自立の芽を摘んでしまった様です。豆ではなく石を投げられましたので、鬼は退散することにします」
「具体的に退散とはどのようなことですか」
「駒形の養育所を彦四郎さんの所に移します。そうすることで気がかりが二つ生じました。一つは折角開設した子供預かり所をどうするかです」
「鐘巻さん、それなら暫く休むと言ってあります。子供たちのために雇ったたねさんとすまさんの二人は継続して雇うことで安心して貰いました。以前は食べることで一杯だったのが、今は、子供をどう育てるかを考えるまでになっていますよ」
「それは良かったです。もう一つは、裏の道場です。四人の親分衆の寄進で出来たものです。子供たちが居なくなった後、どのように使うかが悩みです」
「それでしたら、新吉さんが言っていましたよ。道場は壁が無い造りなので壊すのも組み上げるのも楽だと」
「移築ですか。あとで新吉さんに相談してみます。鬼吉さん、午後子供たちに荷造りさせ引っ越しをさせて下さい。彦四郎殿、受け入れをお願いします」
「分かりました」
「北村殿、継志堂の用心棒の任を解きますので暫く私に同道して下さい」
「何もしなかったが、半蔵はわしを斬りに来たような気がしてならぬ。気のせいかな」
「それを知って居るのは本人と、逃げて行った二人です」
「気が付きませんでしたが逃げた者が居ましたか。改めて皆さんが命がけの仕事をしていることが分かりました。遅まきながら肝に銘じました」
「常八さん。当面店頭販売は止め、御用聞きと配達に専念して下さい」
「分かりました」
「碁四郎さん、八つ半過ぎに了源寺で会いましょう」
「八つ半? 間が在りますね」
「八丁堀に預けている文吉と巳之吉に駒形を閉じたことを伝え、知らずに立ち寄るようなことが無いようさせるためです」
「気を使うな」
「甚八郎。本所の関係者に無用に駒形の養育所に立ち寄らない様に訳を云い伝えて下さい」
「分かりました」
「為吉さん。ご不自由をお掛けしますが暫く暖簾を出すのは控えて下さい。今、お願いしている軸が仕上がれば早速、京橋に出向き仕事を頂いてまいります。また道場の移築が始まりますと、母屋の二階に移って頂くことに成ると思います。宜しくお願いします」
「先日、太白先生が絵を持って来られた折り、互いに良い仕事をさせて頂いていることを喜んでいたのです。仕事をさせて頂ければ他のことの気遣いは無用で御座います」
「色々お願いしましたが、先ずは子供たちの引っ越しが無事済むように協力をお願いします」

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Posted on 2017/04/03 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学