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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第97話 前へ(その4)】 

 志津は兵庫が先のことを考えていること、悩んでいることを知り嬉しくなった。
「それでしたら・・・」と呟いた。
「何か在りますか」と兵庫は直ぐに反応した。
「思い付きですが、浅草は寺社から花街まで在り、粋人も多く集まる所で御座います。その方々の中には書画を見る目を持った方も・・・駒形の家を創作、展示の場にしては如何ですか。そのためには品物を揃え、軸・額・襖・屏風などに仕立て展示するのです」
「襖に屏風までですか」
「これまでの概念は捨てて下さい。例えば屏風と云えば大きなものを想像しますが、赤子や子供の似顔絵を小さな二層の屏風に仕立て調度や棚の上に置けるものにするのです。明日から商いを始める家族の絵は、改まった軸よりは身近に置ける物にするのです。こけしのように」
「なるほど、御殿を飾る松や虎のために考え出された襖、屏風、衝立を、九尺二間でも飾れるような画題と展示方法を考えるのですね」
「はい、私は千丸の成長を描いて貰い、旦那様の日記のように仕立て、時折あの頃はと見て楽しみたいものです」
 二人の話は、布団に入った後も続けられていった。

 嘉永六年九月十一日(1853-10-13)、朝稽古に来た子供たちが駒形に戻る時、大助一人が残された。京橋に出かけるのだが、肖像画を描いて貰った時の姿に合わせ着替えるためだった。
 そして支度を終えた、兵庫、志津、大助、お玉に供の弥一が表口にそろった。肖像画は出来上がった時点で皆が見ているのだが、その時の姿で居る四人を見た者は少ない。少しばかり、いつもよりは派手な様子の四人を養育所の者や、買い物客が見送った。

 駒形の経師屋為吉の暖簾を潜ると、太白は北村徳三郎とすでに来ていて帳場で内藤や為吉と話していた。
「先生。私もお供させてください」と為吉がせがんだ。
「構いませんが、絵が仕上がらないと経師屋さんの出番は無いでしょう」
「それは手順ですが、絵の注文を頂けなくても経師屋の注文が頂けることが在るのです」
「どういう事ですか」
「私の仕事は新作ばかりではなく、修復、仕立て直しも在るのです。持参する軸の仕上がりを見て、思わぬ注文が頂けるかもしれません」
「分かりました。どうぞついてきてください」

 こうして兵庫と北村徳三郎を先頭に志津、大助、お玉その後に、大神田太白と為吉、殿(しんがり)を挟み箱を担いだ弥一の八人が予定より早く駒形を出た。
 だが歩みは遅いお玉に合わせたため、京橋の両替商菱屋に着いたのは四つを四半刻ほど回った頃だった。
 兵庫たち八人が店に入ると、店の者の目が一点に集中した。
「先日、中川殿と参りました鐘巻兵庫と申します」と云うと美人の志津に引き付けられていた目が兵庫に向いた。
「ご用件は何で御座いましょうか」
「先日の“斬られ彦四郎”とは趣を異に致しました、家族の肖像画を持参いたしましたのでご覧頂ければと参った次第、主の伊兵衛殿にお取次ぎ頂きたいのですが」
「わ・分かりました。少々、お待ちください」
 主の伊兵衛は直ぐに出て来た。そして兵庫の後ろに並ぶ者を見渡し、
「何とか入れるでしょう。どうぞお上がりください」
部屋は八人が入っても十分余裕の在る部屋だった。
「確か、家族の絵でしたね」
「はい」
「それでしたら、家内と娘と倅を呼びますのでお待ちください」
 暫くして伊兵衛に従いやって来たのが器量よしの新造と十歳は超えたと思われる娘と七・八歳の倅だった。
「それでは拝見いたしましょうか」と伊兵衛が催促した。
 弥一が挟み箱を開け、軸の入った箱を四つ取り出し、為吉に渡した。そして己は掛け金を持って上座に行き、そこの鴨居に掛け金を取り付けていった。
そして、為吉が箱から出した軸を兵庫、大助、お玉、志津の順に掛けていった。
「ご覧ください、私、大助、お玉、妻の志津を描いた物です。先ずは絵の確かさを確かめて下さい」
掛け軸の前に、絵に見合った者が立って見入って居たが、振り返り描かれた本人を見た。
「よく描けている」と伊兵衛が云えば
「本当に」と新造が、そして子供たちが頷いた。

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Posted on 2017/04/10 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学