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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第97話 前へ(その7)】 

 話が一段落したところで、
「内藤さん、後で、菱屋の奥さんがここに来ますので待たせておいて下さい。迎えに来ますので」
「分かりました」
「大助、戻るぞ」と兵庫が奥に向かって大声を出した。
返事の代わりに駆ける足音がしたが、姿を見せた時四人は歩いて居た。
 駒形で為吉と別れた。兵庫、北村、志津、四人の子供、太白その後を挟み箱を担いだ弥一が続いた。
 暫くして一行は本所の彦四郎屋敷までやって来た。
「峰吉さん、ここに斬られ彦四郎さんが住んでいますが、寄って行きますか」
「はい」
「千賀さんは、どうしますか」
「怖い・・」
「それでは北村殿、彦四郎殿に報告お願いします。それと後ほど母親の千春殿が迎えに来るまで峰吉さんを頼みます」
ここで北村、峰吉そして絵師の太白が屋敷内へと消えていった。
 一行が押上に戻ったのは八つの鐘が鳴る少し前だった。
「お玉、暫く千賀さんと遊んでいなさい」
「はい」と二人は養育所の女の子が遊んでいる北十間川の土手に行った。
「弥一さん、その掛け軸を広間に掛けておいて下さい」
「分かりました」

 それから暫くして兵庫は着流し姿で駒形に向かって居た。
途中兵庫は彦四郎屋敷に入った。
と云うのは、子供たちの声が聞こえたからだった。声の聴こえる庭の道を辿って行くと庭の北側で、深川洲崎十万坪の茂みの中から養育所に入った子供たちが、彦次郎と佐吉の仕事を手伝っていた。
「縄張りですか」と兵庫が尋ねた。
「はい、移築は、新しく来た子たちに手伝わせようと思って居ます。今日は縄張りの中の植木の嫁ぎ先をどうするか佐吉さんにも来て貰って居ます」
「力仕事の時は声を掛けて下さい」
「はい、当てにしています」

 彦四郎屋敷を出た兵庫が目的の駒形の経師屋為吉の暖簾を潜ると、帳場の番をしていたのは見知らぬ男だった。だが、その男の脇には“菱屋”の挟み箱が置かれていた。
「鐘巻です。遅れて申し訳ございません」
 奥に動きが生じた様子がして、先ず現れたのが内藤虎之助で妻の雪に伴われた菱屋の新造・千春、さらに為吉と姿を現した。
千春は外出を意識してかあまり目立たぬように地味な小紋柄だったが、生地、仕立てが上物のためか、帯との対比が良いのか、見栄えのするものだった。
「お迎え有り難うございます。もう少し遅ければ奥様とのことも最後までお聞きできたのですが、それは押上で直接伺うことに致します」
「そうして下さい。この家は先妻と暮らした所ですので、焼きもちを焼いて、ここで過ごされている内藤さんの夢枕に現れといけませんので」
「そうでした。小声で話したので聞こえなかったことにしましょう」と内藤が笑いを誘った。

 兵庫にとって四十両を稼ぐ本日最後の仕事が、菱屋の新造を無事押上の養育所まで届けることである。だが滅多に外出できない新造は何か見つけると足を止めて兵庫に尋ね、確かめた。 
それは、何と目前の川の名前を聞かれ「隅田川」と応えれば「大川だと思ってた」と返されたことから始まり、千春の口が止まることなく、峰吉の待つ彦四郎屋敷までやって来た。
「ここが、“斬られ彦四郎”の屋敷ですよ」
「えっ、こんなに大きいお屋敷なのですか。今は御浪人だと伺って居ましたが」
「これは旗本の抱え屋敷だったのですが、借金の形に取られたのが回り巡って養育所の物に成ったのです。それを中川彦四郎殿に預けたのです」
「養育所のことは先ほど内藤様から伺いましたが、よく分かりません」
「数日お過ごしいただければ分かって貰えると思います」

 広間に中川家五人と兵庫と千春が入ると、北村徳三郎が峰吉を、絵師の大神田太白が絵師修行中の赤松又四郎を連れて来た。
数日間滞在することもあり互い自己紹介したのだが、幼い又四郎が絵師と聞き、千春が眉をひそめた。
「又四郎、先ほど写生したものをお見せしなさい」と太白が命じた。
又四郎は持参した紙挟みをから紙・三枚を取り出した。
「峰吉様を描いた物です。どの構図が宜しいでしょうか」と千春に差し出した。

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Posted on 2017/04/13 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学