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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その29)】 

 兵庫の姿を認めた常吉と鬼吉が部屋の縁側にやって来た。
「上がって下さい」兵庫の呼びかけで二人が座に加わった。
「お二人が一緒に戻って来るとは思って居ませんでした」
「その種明かしをします。時間の節約のため私と常吉さんは繁蔵と久蔵の家までの案内を万吉さんと三五郎さんに頼んだのです。繁蔵の表店、その裏店にこの月分のねぐらを借り、表通りに出て繁蔵の家の出入りを見て居たのです。そこに急ぎ足で店に入る男を見て、万吉さんが“見張りの野郎が戻って来た”と云うので、しばらく様子を見ていたわけです。そうしたら偉そうな男とそれにぺこぺこする見張りの男が出て来て、“親分行ってらっしゃいませ”と見送ったのです。その後を付けて行ったら・・常吉さんが見張る久蔵の家に入ったのです」と鬼吉が種明かしをした。
「その久蔵の家に出入りする者ですが浪人者が多いのです。見ただけでも五人は居ました。腕前の方は分かりませんが、手を焼かせる者がいると抜かざるを得なくなります。何か手を打った方がと思うのですが」と常吉が懸念を示した。
「良く調べて来てくれました。腹ごしらえは未だでしょう?」
「そんな所で」
「段取りを練り直すことにしますので、食べて来て下さい」
 常吉と鬼吉が出て行くと、
「勘三郎さん教えて下さい」と兵庫は相手を変えた。
「何でしょうか」
「真夜中に移動するときには陸ではなく船を多く使いますか。先日の浦島に押し入った時の様に」
「押し込み先近くまで船で行けるのでしたら第一に考えます。駒形ですと竹町の渡し場や御厩の渡し場が在るので間違いなく船を使うでしょう」
「甚八郎、お前の役割は変えないので今から駒形に行き、継志堂の者を使い渡し場と継志堂の双方を下見に来る者が居るか確かめて下さい。確かめるのは今日と明日です。それによって私と碁四郎さんの役割を変えます」
「分かりました」
「それと、継志堂には直接入らず、隣の経師屋から入りなさい」
「はい、行って来ます」

 蕎麦を啜る程度の間を置いて常吉と鬼吉が戻って来た。
「勘三郎さんが、敵は船で来るだろうと云う事なので、渡し場と継志堂の双方の下見をする者が居ないか確かめに甚八郎を行かせました」
「分かりました。それで段取りを見直す話しですが・・・」
「鬼吉さん、今回の相棒は碁四郎さんです。申し訳ありませんが段取りを練り直したいのでこちらにご足労のお願いを頼みます」
「はい、行って来ます」
座ったばかりの鬼吉が飛び出していった。
「さて、碁四郎さんが来るまでに段取りの練り直し案を考えますので、自由に口を挟んでください」
「分かりましたが、練り直す前の私の役割が何だったか教えていただけませんか」
「常吉さんと私が組んで、茶会の日の夜に久蔵の家に押し込むと云うものです」
「その段取り、見直さなくても良いのではありませんか」
「相手が手強くなると甚八郎に無理をさせ、人を斬ることに成ってしまう恐れが在ります。押し入った者を斬っても罪にはならないでしょうが、調べの中で色々と嫌な思いをさせられます」
「分かりました。段取りの練り直し案を聞かせて下さい」
「まだ、細かい詰めは考えて居ませんが、一つ目は、船での水上決戦、二つ目は上陸する所を突き落とす、三つ目は一つ目あるいは二つ目の前に久蔵の家に押し込み、その後駒形に戻り迎え討つと云うものです」
「その三つ目が成り立つのならやりたいですね」
木戸が閉まってから押し込むと戻るのには船を使わないと無理ですが、上げ潮でないと川を遡るのに時間が掛かりすぎ、決戦に遅れる恐れがあります。出来れは五つ半には押し込みを済ませたいですね」
「しかし、抵抗されて物音を立てると表通りですから、人目を惹きますね」
「無理か・・・」
「無理では在りませんよ」久蔵の子分だった富五郎が言った。
「どうするのですか」
「物音を立てても誰も気にはしませんよ。真夜中でも騒ぐ家ですから」
「そう云う事ですか。それでは正々堂々と家に入り出て来ましょう」
「羨ましいです」勘三郎が漏らした。
「お二人さん。早く傷を治して下さい。お願いしたいことは山ほどありますから」
「はい、有り難うございます」

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Posted on 2017/05/31 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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