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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その3)】 

 押上に戻った兵庫は根津甚八郎、近藤小六、常吉を集めた。
「また、東都組の者が現れたと勇三さんから連絡が入りました。狙いが何なのか分かりませんが、心配なのが駒形から了源寺の茶店に引っ越した山内家の方々です」
「茶店は、先生が討ち取った東都組の頭・半蔵や子分が住んで居た所ですから、何か未練を残して居るかもしれませんね」
「未練については後で話すことにして、今は心配事が現実に成った時のことを考え、常吉さんに茶店の警護のため武装して詰めて頂きたいのです。相手側十人の顔を知る仁吉さん、心太さん、三五郎さんにも日中の見張りをお願いしています。私も子供たちを押上に戻したら茶店に向かいます」
「それでは、着替え了源寺の茶店に行く支度をして参ります」と常吉は庭内に貸し与えられた棟割り長屋に入って行った。

「先生、先ほどの未練話しですが、私たち養育所と絡むことでは、東都組の住処だった了源寺の茶店の他に軒賃を取り損ねた継志堂、その邪魔をした北村殿、頭の半蔵を斬った先生に未練が在ると思うのですが」
「そこまでの考え方に異議は無いですが、東都組の頭・半蔵は子分が無理矢理せびった軒賃を借入帳に記載して残していました。この几帳面さは半蔵が武家の出だったからだと思いますが、おかげで借入帳を元に押収した金が戻されたようです。ただ半蔵が亡くなれば、残った十人は唯のならず者です。ならず者の未練の第一は間違いなく金だと思います。ですから命を懸けて私を狙う者など居ませんよ」
「金だとして、もし東都組の者が了源寺の茶店に現れたとしたら、茶店に金が在ると云うことに成りませんか」
「甚八郎、東都組の者は半蔵に渡した金の行方を知らないと思って居ます。もし半蔵が金を母親に預けていたことを知って居れば、東都組の者は先ず母親が住んでいた阿部川町の裏店に行くのではありませんか。その形跡があるのか確かめる必要がありそうですね」
「なるほど、奴らにとって金が第一として浅草に舞い戻ったと云うことは金が町に返されたことも知らないことは確かになりますね」
「恐らく」

 話しをしていると警護の支度を済ませ、脇差を差した常吉がやって来た。
「今、話をしていたのですが、常吉さんは東都組の者が姿を見せた訳は何だと思いますか」
「それは奪った金の行方を捜しではありませんか。奴らは金が同心の久坂様により内密に奪われた者たちに戻されたことは知らないでしょうから」
「金は内密に返されたのですか」と甚八郎。
「知って居るのは一分の町役だけで、東都組の軒賃押し借り自体が無かったことにしようと云うことで事件にさせなかったようです」と兵庫が応えた。
「と云うことは、奴らが、ただ町を歩いて居るだけでは奉行所は何も出来ませんね」
「はい、しかし内密の話を東都組の者が知って居ないでしょうから、脅すことは出来ますし、また今度事件を起こしたときは捕らえることに躊躇わないでしょう。私は、勇三さんに東都組の者を押し借り罪で捕らえて欲しいと同心の久坂さんに言伝をしました。久坂さんは直ぐには出来ないでしょうから、その時は、前回は出番がなかった流れ星一家が灸をすえることに成ります」
「流れ星ですか」常吉の顔に笑みがこぼれた。

 “流れ星”とは奉行所が知らない、あるいは手をこまねく悪事を、兵庫等が隠密に悪事を働く者たちに制裁を加える組織で、時として不明の金品を手に入れることがあった。この余禄は養育所の運営に役立てられたため、兵庫等は悪党の存在を奉行所より早く探し出すことに心がけていた。だが、東都組については奉行所側の岡っ引き勇三から連絡を貰った。これは奉行所が直ぐには動けないことと、東都組の狙いが兵庫と縁の深い山内家の入った了源寺の茶店で在ることを危惧してのことだった。

 “流れ星”と聞き笑みをこぼした常吉だったが、東都組の残党に制裁を加えても得られるものは兵庫等が抱く危惧の一掃と町の平穏で、養育所への直接的見返りは無い
「それでは、了源寺の茶店まで行って参ります」
 常吉を見送った兵庫は、甚八郎と近藤に
「私は着替えたら山中さんにこのことを伝えた後、駒形に連れて行った子供たちを連れ、夕食前には戻ります。後のことは宜しくお願い致します」
「任せて下さい」

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Posted on 2017/05/05 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学