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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その7)】 

「それでは神田川に架かる橋の見張りですが、後ろめたい者たちですから門番の居る浅草御門は避けるでしょう。渡る橋を柳橋と新シ橋に絞り見張りましょう。柳橋を仁吉さんと今ここには居ない乙次郎さんにしますので、今日は碁四郎さんの方で誰か出してください」
「分かった」
「新シ橋は心太さんと常吉さん、茶店は三五郎さんでお願いします。同じ場所に居続けるのは飽きますので、見張りの間を空けない工夫をして守備交代をして下さい。矢五郎殿はお好きな所へ・・」と兵庫が矢五郎に振った。
「もし、手下どもが深川ではない所に潜んでいたら、特に北にだが、その場合南の見張りは無駄になる。誰か暮れ六つの鐘が鳴ったらここに戻って来て、わしを奴らが揃って行った所に連れて行って貰いたい」
「矢五郎さん、もう少し分かりやすくお願いします。“奴らが揃って行った所”をご存じなのですか」
「単なる勘だが、奴らは恐らくそろって飯を食いに行く気がしたのだ。奴らの懐具合、頭数十人となると、店も限られる。恐らく・・・」
「先日、奴らが行った西仲町の多良福ですね。あそこなら酒飲んで飯を食っても一朱在れば御の字ですよ。私がご案内いたします」と仁吉が名乗り出た。
「お供します」「皆で行きましょう」と見張り番の者が声を上げた。
「それでは、皆で相手の顔を覚え行って下さい」と兵庫が許した。
「山中殿、皆となるとわしの懐のものでは足らぬ。坊様の功徳を分けて貰えぬか」
矢五郎が賭け碁で懐を潤した碁四郎に頼んだ。
「悪銭身に付かずか」と碁四郎は懐から巾着を出し、紐を緩め手の平の上で逆さまにした。
澄んだ音がして手の平の上に、一分銀が三枚、一朱銀が四枚の計一両が乗っていた。
碁四郎が「これは元手」と一朱銀一枚を巾着に戻し、残りを矢五郎に渡した。
「これで役割分担は決まりました。私は吾妻橋の見張り手配を済ませたらここに戻ります。何か生じたら知らせて下さい。常吉さん、今夜此処に泊まると伝えて下さい」
「分かりました」

 駒形に戻った兵庫は継志堂の暖簾を潜った。
帳場には番頭の常八と手代の藤吉が座っていた。
「鐘巻様」
「常八さん、居る者を集めて下さい。頼みが在ります」
「皆揃っています。お待ちください」
 奥から出て来たのが、大吉、武三、三次、田作と用心棒を頼んだ北村徳三郎だった。
「東都組の者は事件後姿を消していましたがまた浅草に現れたとの情報です。今手分けをして探し始めて居ますが、東都組の者は川向こうに逃げたとの推測から、浅草に入る橋を見張ることにしました。それでお願いですが、東都組の者で顔を知って居る者は、先日継志堂に軒賃をせびりに来た伊佐次と忠治です。この二人が吾妻橋を渡るかもしれませんので二人で見張って頂きたいのです。もし見かけたら、落ち着き先を確かめて欲しいのです。私は了源寺の茶店に泊まる予定ですので、何か起きたら知らせて下さい」
「三次に田作、直ぐ見張りを始めて下さい。店が終わったら応援を送ります」

 吾妻橋の手配を終え、茶店に戻ると暮れ六つの鐘が鳴った。
打ち合わせ通り、柳橋や新シ橋の見張りをしていた者が茶店に戻って来た。
その中に山中碁四郎や浮橋の船頭の姿は無かった。
「鐘巻さん、飯屋に行って来ます」と中川矢五郎が立ち上がった。
矢五郎と茶店を出て行ったのは常吉、仁吉、心太、三五郎だった。

 暮れ六つの鐘が鳴ると、寺の門が閉まり参道に入り込んで来る者が減る。それが参道に軒を連ねる店に暖簾を仕舞わせ、明かりを落とさせた。これが更に客足を遠ざけることに成るのだが、茶店を預かった山内家の者は店を閉めなかった。いや閉められなかったと云う方が正しいかもしれない。
 山内家がこの茶店に入ったのはつい最近のことで、それまでは駒形の養育所が持つ裏店で暮らしていた。その時の一家の収入は稲次郎のカラ寿司の屋台売り、当主康介が口入屋で紹介された先でまとめ役をしていた。他に裏店に残った者も養育所の賄いなどの世話をすることで、一家としてはそれなりの収入が在った。

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Posted on 2017/05/09 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学