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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その10)】 

 悪党に対しては流れ星を使い自ら制裁を加えようとする一方で、悪党同士の抗争が起きることを放って置けないのが兵庫らしいと思いながら甚八郎が、
「助けてあげたいのですか」
「全く知らない仲でもない者たちが大怪我を負わされるかもしれないと思うと、見過ごせない気分なのです」
「分かりました。助けてあげましょう。ただし、悪党の味方をしたと町の者に思われない様に押し借りした軒賃を返させてからにしましょう」とこれまであまり融通の利かなかった甚八郎が言った。
「異存はないですが、難題のような気もする」
「軒賃を返却する気にさせるには東都組の者たちを捕らえるなりして説得から始めなければなりませんが・・そのためには・・」と近藤小六が難題を解く大一歩を言いかけ止めた。
「常吉さんが戻れば相手の住処が分かるかもしれません。ただ相手が十人ですから拉致するのは大変ですね」

 常吉等が戻って来たのは四つの鐘が鳴って暫くした頃だった。ただ四人ではなく五人に成って居た。夜分でもありその足音は十軒店の中に居た兵庫等にも聞こえてきた。
「帰って来たようですが、方角が東と云うことは、ねぐらは浅草の北ではなく、やはり大川を渡った深川だったようですね」と云いながら兵庫は道場口の戸を開けた。
 先頭を歩いてやって来たのは、山中碁四郎だった。
「どうここに来たのですか。聞かせて下さい」
「それより東都組の手下十人が網に入りました。捕縛のため手勢を揃えて下さい」
碁四郎の真面目な様子に兵庫も
「ここに居るのは・・・八人ですが足りませんね。中之郷から中川親子、坂崎さん、北村さんの侍が四人と鬼吉さん」
「抵抗させないためにもう少し増やしましょう」
「向島の村上さん、乙次郎さんそれと辰五郎さんでどうですか。・・十六人に成りますが」
「それでは私の方からは銀太さんに捨吉さんそれと宇野宗十郎さんに頼んでみます」
「宇野さん? おりょうさんの旦那に成ったあの宇野さんですか」
「そうです。その辺の話は人を揃えている間に話します」
「そうですか。仁吉さん中之郷に行き侍の皆さんと鬼吉さんに、これから捕り物をすると云い、呼んできてください」
「分かりました」
「常吉さん、向島と辰五郎さんをお願いします」
「分かりました」
 こうして、仁吉と常吉が助っ人を呼びに出かけた。
「心太さん、三五郎さん、皆さんが来ましたら広間に来るように言って下さい。皆さんが揃ったら戸締り、火の用心を済ませ、広間にお願いします」
「分かりました」

 広間に座を変えた兵庫は月明かりを取り込むために雨戸を開けた。
そして、
「碁四郎さんが今ここに居ることに成った経緯(いきさつ)を聞かせて貰えませんか」
「それは、偶然と必然が私をここに導いたのです」
「それでは先ず偶然からお願いします」
「私がなかなか寝付かない万丸を抱き月見をしていたら、店の前を酔っぱらいの集団が通り過ぎ、その後を柄の悪い四人連れが通りかかったのです」
「なるほど、偶然と云われれば偶然な出会いでしたね」
「そこで私は必然を導くために、もっとも柄の悪い常吉さんに、遅くなると皆さんの様子では木戸を通るのは難儀でしょうから、船で送るので帰りに寄って下さいと告げたのです」
「なるほど、それで柄の悪い方が戻って来たのですね。しかし、碁四郎さんがわざわざ送る必然性は在りませんね」
「はい、必然を導くもう一つの偶然が在ったのです」
「その偶然を聞かせて下さい」
「常吉さんらが追っていた東都組の手下十人が入ったねぐらが何と六間堀の船宿浦島だったのです」
「私には碁四郎さんがわざわざやって来た必然が分かりましたが、甚八郎はどうだ」
「山中様と浮橋の女将・おりょう様との込み入った話は漏れ窺って居ますので・・」
「それ以上は言うな」と碁四郎が止めた。
「近藤さん、浦島は浮橋と同じく船宿で、過去に碁四郎さんが面倒を見ていたのです。それとおりょうさんのご主人も碁四郎さんと縁の深い剣客で、宇野宗十郎殿です。その船宿に懲らしめようと思って居た東都組の者たちが宿にしたのです。しかも酔っぱらってです。この好機を逃す手は在りませんね。碁四郎さんが今ここに居る必然の訳です」
「ここまで偶然が重なり、願っていたことを叶えるとは戯作話を読んでいるようです」
(影の声:過去に蒔いた種が刈り取るまで実りました)

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Posted on 2017/05/12 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学