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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その11)】 

 兵庫や碁四郎は思いついたら実行する傾向が強い。それは機会を逸することを嫌ったからだ。実行しても思ったように行かないことはしばしば起こるが、それを気にすることも無い。良くも悪くも経験を積めたからである。
 その思い付きに寝付いたところを起こされた者たちが広間に集まり始めた。
文句を言う者はおろか、不満を顔に出す者さえ居ないのが兵庫の周りに集まって来る者の特異なところかもしれない。
道場口の番をしていた心太と三五郎が座に着くのを待って兵庫が口を開いた。
「夜分迷惑をおかけします。集まって頂いたのは、半蔵の死で逃げ去ったと思って居ました東都組の手下十人が浅草に現れ、迷惑行為を始めたようです。当初はこの者たちに制裁を加えて解き放つつもりだったのですが、それではまた悪事を繰り返すことで、同じ生業(なりわい)のならず者たちの縄張りの掟を破ることに成り、命も危ぶまれることに成ると教えられました。私はこの十人を懲らしめるのではなく、また放って置くのでもなく助けることにしました。助けることで町の者から非難されることが無いように十人を躾け、軒賃と称して押し借りした金を返却させることから始めます。今夜は十人が寝ている所、山中さんの知り合いの船宿・浦島に船で行き、拉致し、中之郷の養育所内に匿う事にします」
「先生、お尋ねしても宜しいですか」と心太が打診した。
「構いませんよ」
「東都組の十人を狙う者は何処の一家の者か分かって居るのですか」
「矢五郎殿分かりますか」
「一般論だが利害が在る者だから推測はつくのだが、証明が出来ない。自らは手を下したりはしないからだ。下手人を捕らえても白状はせずに罪を被って死んでいくと言われている。わしが扱った事件では刺客は捕まっては居らぬ。孤立していては身を守ることは出来ないだろう。狙われることが多いならず者が徒党を組むのは身を守るためと考えるのが妥当だろう。だがあの十人には助け合って身を守ろうという意識が無いに等しい」
「他に何か聞きたいことが在りますか」
「・・・」
「それでは出かけましょう。碁四郎さん船は何処ですか」
「横十間川の柳島の船着き場で捨吉さんと銀太さんが待って居ます」

 どんなに静かに話し合ったとしても、多人数の男たちが集まった広間からの声は女たちの寝間へ届く。そもそも真夜中に男たちが集まったこと自体が尋常ではないので、皆、平服に着替え直して話が終わるのを待って居た。
兵庫が、遠慮せずに声を上げた。
「今より船で六間堀の浦島に参り、東都組の手下十人を拉致し、中之郷に匿い明け方には戻ります。心配せずにいて下さい」と留守をする者たちに伝えた。
男たちが広間から出て行くと女たちや彦次郎、佐吉らが出て来て見送った。

 船頭も加え総勢十八人が乗った船が静かに船着き場を離れ南に向かって進み、堅川に出ると西へ進み二つ目橋を過ぎた左岸松井町から六間堀へと入って行った。
「皆さん静かにお願いします。辻番が目を覚ましますので」
六間堀に入ると六間堀町までの両岸に武家屋敷が在るため形ばかりだが辻番所が設けられているのだ。
その辻番所を過ぎた。
「もうすぐ左岸が浦島の在る南六間町です」
皆の目が左岸の街並みを見た。
「碁四郎さん見たか」
「ああ、数人の人影が浦島に入って行った。刺客かも知れぬ。捨吉さん、銀太さん急いでくれ」
船着き場に急ぎ船を寄せて行くと
「浦島のでない猪牙(ちょき)舟が泊まって居やがる」
「構わねぇ、弾き飛ばすぞ」
その通り、数人乗りの猪牙舟に二十人は乗れる大船が追突して弾き飛ばした。
その瞬間兵庫と碁四郎は船端を蹴り陸(おか)に飛んでいた。
浦島の事情を知って居る碁四郎を先頭に兵庫が店に消えて行くのを、遅ればせながら上陸した男たちが追った。
 怒声に続き悲鳴が無理やり押し開けられた奥から聞こえて来た。
上り口の板の間には泊まり客のために明かりが灯っている。
「これから入るので、刺客にも東都組の者にも逃走されない様に、出入り口や窓を見張って下さい」と背後の者たちに頼んだ。

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Posted on 2017/05/13 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学