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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その12)】 

 碁四郎が一歩進み出ると、兵庫も続いた。
「山中碁四郎参る」
「鐘巻兵庫参る」と大声で名乗りを上げ二人は飛び込んだ。
名乗ったのは宇野宗十郎とおりょうに助っ人が来たことを伝えると同時に、宇野との同士討ちを避けるためでもあった。
「兵さん、宇野さんの安否を確かめて下さい。私は二階に行きます」
「無理はするな、直ぐに行く」
こうして兵庫は一階の奥へ、碁四郎は二階へと駆け上がって行ったが、その足音が止まった。

 兵庫は帳場の灯りを持って用心しながら奥へと進んでいくと廊下に草鞋を履いた者が伏して居た。
宇野さん鐘巻です。廊下に賊・一人が倒れています。私は山中さんの助っ人に行かねばなりません。部屋から出て来て下さい。
「分かった」
それは紛れもない宇野の声だった。そして宇野が姿を現した。宇野が身に付けていた物は手に持つ血刀と賊の返り血が着物代わりだった。
「お取込み中の所を襲われたのですか」
「全く、無粋な賊だが、起きていて助かった」
「誰か二人、明かりを増やし一階を警護して下さい」と呼びかけると、入って来たのは中川彦四郎と常吉だった。
「宇野さん、こちらの二人は味方です」
「分かった」

 兵庫は二階への階段下に行くと、
「碁四郎さん、上がるぞ」
「頼みます。賊・二人が潜んでいる様子です」
「厄介だな。討ち取ることにしよう」
「止むを得ませんね」と兵庫が階段を上り始めると、賊がその足音に反応した。
一番奥の部屋から飛び出した二つの影が、雨戸を蹴破り、二階から飛び降りたのだ。
だが、賊が出来たのはそこまでだった。
二人とも逃げ去ることが出来ない傷を負い、囲まれたことで観念し捕縛されてしまったのだ。
兵庫と碁四郎は、震えあがっていた東都組の手下を一階に下ろした。

 血に浸る骸の横たわる廊下が見える帳場に、足を痛め歩行が困難な二人の賊が座らされた
それに対座するように十人の男たちが座らされていた。
その双方を囲むように、武器を持った男たちが帳場や土間に立った。
「先ず、骸の処置ですが・・・」
「それは私に任せて下さい。ここの定廻り坂牧殿を存じていますので」と中川彦四郎が名乗り出た。
「それでは、お任せします。つぎに賊の二人ですが、十人に刃を向けなかったので情状を考えても良いような気がしますが、徒情(あだなさけ)けに成ってはいけません。どうしましょうか」
「奉行所に渡すか、解き放つか、暫く匿い傷の養生をしてもらうか、本人に聞いたら如何ですか」と常吉が云った。
「私に異存は在りませんが、宇野さん如何ですか」
「蹴破った戸の修繕費と明けた後、商いが出来ないだろうからその代金が浦島の損害だが、客が殺されなかったので浦島の名を汚さずに済んだ。赦してやるよ」
「お二方、ここでの出来事は死んだ者一人に背負って貰う事にしても構わないのですが、どうしますか」
「このままでは戻ってもろくな死に方は出来そうもない。ひと思いに殺してくれ」
「それでは、死んだことにし、匿いましょう。残る十人ですが、命を狙われているとも気づかない者たちです。放って置くと宇野殿の様に巻き添えを被る人がまた出ますので独り立ちが出来るまで、鍛え直すことにします」
「そうと決まったら、先ず怪我人に養生させましょう」と村上茂三郎が言い二階から飛び降り足を痛めた賊に歩み寄った。
「先ず、名前を聞こうか」侍に近づかれ二人は解けていた緊張をよみがえらせた。
「私は勘三郎と申します」
「私は富五郎で御座います」
「それでは見せて貰うぞ」と云い、茂三郎は二人の足を見、触り、動かし、そして辺りを見回して
「宇野殿、不用になった竹刀は御座いますか」
「どれを使っても構わぬ。添え木にするには長い、鋸(のこぎり)はあの棚の道具箱に入っている」
二人の治療が始まると、これにやくざ者だった常吉、乙次郎、鬼吉が手を貸し、添え木を当てるなどの養生を施していった。

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Posted on 2017/05/14 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学