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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その17)】 

 広間に戻ってきた兵庫に彦四郎が、
「今朝がたからの動きは根津さんから伺いました」
「それでは船宿・浦島で起きた事件のその後を聞かせて下さい」
「事件について宇野殿の証言は押し入った三人の賊をたまたま小用で起きた主の宇野殿が見つけ、一人を斬り倒し、二人に手傷を与えたが取り逃がした。逃げた者の風体は分からず、特に奪われた物はない。と云うより、何を目当てに貧乏船宿に押し入ったのか不明という証言です。他に泊まって居た十人の男たちについては知らぬ間に姿を消していたと云う事です」
これに対し定廻り同心の坂巻殿は
「死んだ者の身元を割りだそうとしても手掛かりに乏しく、難渋しそうだと調書を上げるそうです」
「養育所関係者の名は出ない分けですね」
「はい、奉行所には報告されませんが、いきさつは全て話してあります。勿論、逃げた二人のこと、姿を消した十人のこと、今どこに居るかも、どうするかも伝えて在ります」
「それで結構です。浦島に彦四郎さんがどうして居たのか、正直に言うのが一番です。それとこの事件は本所・深川で起きたものですが、火元は川向こうの浅草側です。忙しい坂巻殿は飛び火がこれ以上来ない様に、浅草側で火元の後始末をつけて欲しいと思って居るはずです。今日の午後から浅草側で動くことにします」
「身体の傷も癒えましたので、斬られ彦四郎の出番も用意して下さい」
「えっ 斬られ彦四郎 まさか」と少し離れて同席していた勘三郎が呟き、富五郎と顔を見合わせて、そして改めて彦四郎を注視した。
彦四郎も反応し二人を見た。
「お二人さん。私もこの養育所で傷の養生をして来ました。早く良く成って下さい」
二人はただ小さく頷くだけだったが、なぜか目の光は増していた。

 暫くして、板木が打たれ広間は昼食の席に変わっていった。
東都組の者十人がの代わりに、その数を上回る男の子たちが座った。
「今、椅子に座りターフルを膳がわりにしている方が居ます。勘三郎さんと富五郎さんですがご覧の様に片足を折り、もう片方も痛めていて一人では動けません。片足がしっかりしていれば、杖とケンケンで動けますが、両足の悪いとそれも出来ません。今日より、お二人が一人で動けるようになるまで、九歳以上の男の子は押上でお二人と暮らしのお世話をするように。九歳以上の者、手を上げなさい」
佐助、観太、虎次郎、熊五郎、富三郎、秋四郎の六人が手を上げた。
その六人を勘三郎と富五郎が見ていると、志津が老女に向かって
「綾様、文様、子供たちを宜しくお願いします」
「分かりました、奥様。お任せください」

 食事が始まり、そして終ると、兵庫が
「片付けが済んだら六人は広間に集まりなさい」と告げた。
 子供たちが戻るまでに兵庫は竹刀や六尺棒を用意し、その使い方を勘三郎や富五郎と話しながら待った。
そして男の子がやって来たが六人ではなく全員だった。
それは何かわからぬが母・志津の傍に居られるような世話とはどのようなものか興味があったのかもしれない。
 集まった子供たちは兵庫が話し始めるのを待った。
「私はこれから外出しなければなりませんので、皆にお願いしてから出かけますので、勘三郎さんや富五郎さんと相談しながら良い方法を探して下さい。それではお願いを言います。一つ目は、子供でも移動の手伝いが出来る方法を決めて下さい。二つ目はオシッコの取り方。三つめは・・」
「うんち」と男の子に混ざって見ていたお玉が言った。
「そう、その三つです。方法を決めるには先ず子供たちだけでやってみて確かめてから、実際にお二人にも試し、直す所があれば直し、少しでも良くしてください。どうしても良い方法が見付からな時は綾様や文様の知恵を借りて下さい。考えて貰えますか」
「はい」と云う返事が六人以上から出た。
「あの、棒と竹刀は何に使うのですか」
「私が勘三郎さんを移動させるのなら、負んぶでも、抱っこでも、肩車でも出来ます。しかし子供一人では重すぎて出来ません。みんなで力を合わせれば重い物を運べます。例えばお神輿です。考えて下さい」
と云い、兵庫は広間から出て行った。

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Posted on 2017/05/19 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学