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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その18)】 

 兵庫は根津甚八郎と常吉に、東都組の頭・半蔵亡き後に手下が集めた軒賃を返却するため出かけるので護衛を頼むと告げ、部屋に戻った。
 押上を出て行く兵庫は風呂敷をぶら下げていた。
「先生、それは鎖ですね。着させるのですか」
「今日は刺客の的になった竜三郎が集めた軒賃を返すことにしますので用心のためです」
 程なく兵庫等は竜三郎ら東都組の手下十人が匿われている中之郷養育所に入った。
ここは旗本の抱え屋敷だったのが、手放され、巡り巡って養育所の物になった。町人町に囲まれた広い屋敷は通行の邪魔であることの他、将来屋敷を町人町に戻すことを考えている兵庫は朝の五つ(8時)から夕七つ(4時)まで、表門と裏門を開け通行を許した。
しかし、刺客に狙われた十人を匿ったため、開けられていた屋敷の門は保安上の問題から閉じられるように成って居た。

 広間に多くの者が集められた。
「今から、明るい内だけ浅草に行き軒賃を返してきます。警護の都合で出かける東都組の者は一人にし、その一人目は刺客に狙われた竜三郎さんにします。護衛は私、甚八郎、常吉さん、あと何人か・・・」
「私が」「拙者が」「私が」・・とその中には東都組の仲間までいた。
「今日はお披露目で竜三郎さんを見つけて貰うためです。相手は昼間から護衛の付いている者を襲わず、住処を確かめるために付いてくる者が居るかもしれません。その者を逆に付けて、相手の住処を突き止めて欲しいのです。運が良ければ浅草の依頼側と浅草以外の所から来た刺客側の双方を突き止めることが出来るかもしれません」
「そう云う事なら、足の良い庭番方から二人と尾行者を見つける目を持つわしが行く」
と、矢五郎が仕切った。
「そうと決まったら、竜三郎さん、この鎖を着込んでください」と持参した鎖帷子を渡した。そして
「竜三郎さん、返しに回る店は何軒で、軒賃の総額は幾らに成りますか」
「亀甲屋、玉城屋、千足屋の三軒で、間口はそれぞれ二間、二間、二間半ですから、六分二朱です」
「彦四郎さん、その金をこちらで用意して頂けませんが」
「構いませんが、駒形に何故いかないのですか」
「刺客側の動きが早ければ、吾妻橋を渡る者を見張る用意が出来ているかもしれません。駒形に寄るとそこにも目を付けられる恐れが在ります。守備隊を分散させたくないのです」
「分かりました・六分二朱、用意いたします」
用意が出来た兵庫に、矢五郎が兵庫に
「辻などの要所で歩みを暫く止めて下さい。その動きに合わせる者が居ないか確かめますので」
「分かりました」

 こうして兵庫を先頭に竜三郎、常吉が一列に成って最初の店三間町の亀甲屋に、矢五郎に言われたように辻辻で足を止めた兵庫は、振り返り竜三郎に道を尋ねながら向かった。
そしてその動きに反応を繰り返す男二人が現れた。
「三五郎、お前は縦縞の男を、万吉はもう一人を頼む」
「分かりました、旦那」と二人が応じた。
「それでは、わしは駒形に行き六分二朱を取り戻しに行ってくる」と云い、その場を去って行った。

 一方、兵庫等は三軒町に足を踏み入れていた。
「鐘巻様、あの醤油問屋です」と指さした。
そして店の前まで来たが竜三郎は暖簾を潜ろうとはしなかった・
「どうしたのですか」
「もう来ないと云って前回店を出たのです。入りづらいのです」
「足を洗うつもりだったのですか」
「はい、私は。他の者のことは知りません
「そう云う事でしたら、私の後から来て下さい」
 二本差しの兵庫の姿に番頭は怪訝な顔で「いらっしゃいませ」と迎えたが、次に入った竜三郎を見て、露骨に嫌な顔をし、最後に入った常吉を見て凍り付いた。
この三人はそれぞれ怖い顔をしているのだ。
「お借りしましたものをお返しに参りましたので、主殿をお呼びください」
「何かお貸ししましたものが在りましたか」
「この竜三郎がお借りした軒賃で御座います。お返ししますので主(あるじ)殿の受け取りの証を頂きたいのです」
「本当ですか」
「私は鐘巻兵庫と申し、養育所を開いて居るものです。悪い嘘はつきませんのでお呼びください」
番頭の役割を果たしたと思ったのか、それ以上抵抗することなく、主を呼びに姿を消した。

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Posted on 2017/05/20 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

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