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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その22)】 

 兵庫の自信ありげな問いかけに
「ど・どうしてそれを・・・」
「それは、お二人を挟み撃ちにした時、おいさんの方が強く切り抜ける様子を見せたからです。てめぇさんは終始見届け人でした。見事にお二人で刺客と依頼人を演じていましたよ」と尤もらしいことを云ったが、押上の首実検の時に確かめたことだった。
「先生、二人を拉致したので少し状況が変わりましたが、明日も今日と同じにように軒賃を返して回るのですか」と久八が尋ねた。
「はい、運が良ければ明日も二人を拉致できますよ」
「拉致するのはお考え在ってのことですから、異存は無いのですが、一緒に寝るのでしょ。狙われた者としては居心地が悪いのですが」
「それは分かりますが、十人対二人では、二人の方が居心地が悪いのではありませんか」
これに、おいとてめぇの二人が頷いた。
「それと人を殺害することは重罪です。だからその罪から逃れようと金を使い刺客を頼むのです。しかし、もうすぐ“おい”さんの親分を調べに行った者が戻れば名も在所も分かります。何もかも明らかになっては刺客商いは務まりません。おいさん、てめぇさん、前に座っている方は怖い方です。何をしたか知って居ますか」
それは中川彦四郎だったが、ロウソクの灯りでは面体の異様さが分からなかったのか、返答に詰まっていた。
「分からない方は、床の間の掛け軸を見て下さい。参考までに名は中川彦四郎殿です」
掛け軸を見に行った者は、二人の他にも居た。
全身に傷を負いかろうじて立っている侍が写実で描かれていた。その顔はまさに彦四郎だった。
反応はそれぞれで、賛を読んで初めて知る者から、「やはり、そうだったのか」と納得する者までいたが、つい最近京橋宮古屋事件の修羅場を切り抜けた南町奉行所同心だった斬られ彦四郎のことを知らない者は居なかった。
「この屋敷内での、悪さは許しません。その代わり、人を殺める前に、これまでのことを悔い改めれば、奉行所に突き出すようなことはせず、先々の身が立つよう支援します」

 それから暫くして三五郎が紅潮した顔をして戻って来た。
「話してくれ」と矢五郎が催促した。
「私が追った者は芝・神明町の料亭・磯甚の隣の仕舞屋(しもたや)に入りました。主の名は久蔵と申し、やくざ者でした」
「ご苦労だった。飯を食いなさい」
短い話だったが、それは威を残していた、おいとてめぇの二人の肩を落とさせた。
名を明かさず頑張っていた二人だったが、仲間が後を付けられ身元がばれてしまった。
その仲間の失態が、拉致された者に擦り付けられるのは目に見えていたからだ。

「お二人さん、これで帰る所が無くなりましたね。ここに居る者は皆、帰る所が無い者たちですよ」
「もし明日の朝、目覚めることが出来たら、名を変えることにします」
「そうして下さい。生きるために他人を困らせることから、助ける方に商いを変えてみてください。皆で力を合わせればなんとか暮らしが笑いの中で出来るようになりますから」

 兵庫と常吉が押上に戻ったのは五つ(8時頃)の鐘が鳴った後だった。
兵庫の帰りを常吉から知らされた男たちが道場に集まり兵庫が着替えて来るのを待って居た。
袴を脱いだ兵庫がやってきて、満月の下に居並ぶ男たちを見回しした。
「勘三郎さんと富五郎さんにも話しておきたいので、部屋へ行きましょう」
男たちは足を折り動けない二人の部屋へ移動した。
起き上がろうとする二人に、
「話は直ぐに終わります。寝たままで聞いてください」と云うと二人はそれに従った。
「今日の収穫は、刺客を頼んだ者と引き受けた者が分かったことです。頼んだのは入谷の繁蔵と云う新参者で、刺客を引き受けたのは芝・神明町の久蔵と云う者でほぼ間違いないでしょう。他に久蔵の子分総三郎と繁蔵の子分一人を拉致できました。気に成ることが在ります。それは、死んだ半蔵が残した金が、残されていた借入帳に従い返されて居ないようです。このことは矢五郎さんに調べをお願いしました。明日の動きは今日に準じます。常吉さんの代わりに乙次郎さんお願いします。悪党が誰か確かに成ったら、悪党退治に出かけることにします。以上です」

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Posted on 2017/05/24 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学