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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その27)】 

 店の中に入った兵庫は、荷物を奥座敷に運ぶように告げた。
二階に運ぶものと思って居た店の者や乙次郎は、おかしいと思ったのか互いに目を見合わせたが、黙って従い、直ぐにその作業が終わった。
 兵庫の指示で奥座敷に持ってきた荷物を運び込んだ十人が、首を傾げ兵庫に、
「鐘巻様、この部屋に十人は無理です。寝床は二階では在りませんか」
「はい、二階です」
「邪魔ですから、運び上げましょう」
「その前に常八さん、十人が一日の多くを過ごすことに成るここの二階を見せて下さい。十人の皆さんは通り側の窓を開け、外に顔を見せるようにして下さい。特に竜三郎さんお願いします。それでは見て来て下さい」
十人は常八の案内で階段を上がって行った。
見送った兵庫が、
「乙次郎さん、内藤さんに着いたことを知らせ、寝床の部屋を確かめて来て下さい」
「そう云う事でしたか。二階は二階でもお隣の方でしたか」
「夜、この家に居る者は戦う者たちだけにしておきたいのです。戦う場所はここの他に入谷と神明町の三か所です。戦う者を分けなければなりません。守ってはいられないのですよ」
乙次郎は兵庫の狙いを知り身震いする思いに襲われながら、裏口を出て行った。
 継志堂と内藤が居る隣の店とは、継志堂を手に入れた時に裏でつなげたのだ。

 二階の下見を終えた元東都組の者十人と隣の家の二階を確かめてきた乙次郎が少しの間を置いて戻って来た。
「それでは、安心して眠られる寝床に案内します。持参した木刀などはここに置き、自分の夜具だけを持って乙次郎さんの後に付いて行って下さい。隣の家の二階が皆様の本当の寝床に成ります。相手に知られない様に寝る時にのみの利用に限ります」

 十人が姿を消した後、兵庫は継志堂の者たちに、
「皆さんには今日、明日はいつものように暮らして下さい。ただし、宿直番をして頂き、何かを察知したら詰める護衛に知らせて頂きます。茶会当日の十八日の夜は捕縛の役をお願いしますので、二階か道場に控えて頂きますので、心得ていてください」
「出番を作って頂いて有り難うございます」
「打撲の薬を用意しておいて下さい」
「それでしたら、売るほど在りますので」
「そうでした。商いを始めていただく前に、あの十人を鍛え直しますので、防具と竹刀を貸して下さい」
直ぐに六人分の剣術道具が運ばれてきて、常八と藤吉が帳場へと出て行った。
 部屋に残ったのは薬研仕事をする者と御用聞きに出かけるのを止められていた者だった。
「三次さん、田作さん。表の大八車を中之郷養育所へ届けて頂けませんか。そして中川彦四郎殿に魚が掛かったようだと伝えて下さい」
「分かりました」と二人は奥座敷を出て行った。

 夜具を隣の店の二階に置いて十人が乙次郎と戻って来た。
「竜三郎さん、今後、宿直番をお願いすることも、また、手薄な時に狙われた時には我が身を守らねばなりません。そのため付け焼き刃でも剣術の稽古をして貰います。ここに借りた道具が六組在りますので、十人を、強さが均衡するように二班に分けて下さい。一班はここの二階に上がり張見世のように顔を外に見せ、居ることを敵に教えて下さい。残りは稽古です。私はこれから出かけるので乙次郎さんの指導を受けて下さい。乙次郎さんは皆さんをがっかりさせませんので遠慮なく打ち込んでください。乙次郎さん、頼みます」
「分かりました」
「一班は、俺、六助、大二郎、波平、伊佐次とし二階へ、残りの久八、鎌之助、小助、好太郎、忠治は稽古だ。鐘巻様、これでお願いします」
「悪党から足を洗うためには、改心を見せるだけではなく、悪の後釜が生じる芽を摘んだことを知らせることです。命を狙われたことで後釜の悪党に遠慮なく歯向かえる動機を与えらました。これを幸運と思い生かすことです」
「迷惑をかけた方々に少しでも身の在る詫びをさせて頂きますので、脆弱な私たちにお力をお貸しください」
「やる気を見せれば、養育所の者たちは見捨てません。先ずは自信を持つことです。そのためには・・」
「乙次郎さんに叩かれることから始めます」
「それで良いです。私は山中さんに会って、戻ってきます」

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Posted on 2017/05/29 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学