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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その30)】 

 暫くして碁四郎そして鬼吉が駆け込んできた。
「段取りの見直しをするそうですね。それは構いませんが今度船を使う時は船賃をお願いします。しっかりしている者が居ますので」
「今度はそのつもりで、繁蔵の家を頼んだのですが・・繁蔵まで構って居られそうもなくなりました」
「久蔵の方が浪人を雇っている話は聞きました。夜陰に大勢を動かすのはやはり船に限ります。それで勘三郎さん、富五郎さん尋ねたいのですが・・」
「なんなりと」
「浦島に向かう舟はどこから出しましたか」
「向島の岸辺からです」
「やはり。その舟は?」
「私たちは用意された舟を使っただけで、持ち主が誰かは知りません」
「あの猪牙舟は山谷堀で盗まれた物でした。しかし今度は十人程度乗せる船が必要になりますが、盗むのは無理です。私なら山谷堀から猪牙に分乗し竹町で上がり、揃うのを川岸の葦簀小屋の影で待ちます」
「川下からは来ませんか」と兵庫が確かめた。
「無いとは言い切れませんが、大事の前の小事、吉原帰りなら四つを過ぎても怪しまれません」
「なるほど、一つ聞きたいのですが、吉原帰りを装うと乗って来た舟は客を下ろすと帰ってしまいますが、敵方は用を済ませたら、徒党を組んで陸路を帰るのですか」
「相手は用が済んだら、明け方まで継志堂に居て朝立ちするのではありませんか」
「そうなっては困りますので、駒形の守備力を増さねばなりませんね」と云い兵庫は碁四郎を見た。
「入谷の繁蔵宅押し込みを諦め、私や鬼吉さんも駒形の守備ということですか」と気を落とした。
「がっかりしないで下さい。上手く行くか詰めが必要ですが、神明の久蔵宅から悪党が駒形に向かった後に押し入り、仕事を済ませ駒形へ引き返し、賊を迎え討つと云う段取りが成り立つかです。勘三郎さんの話では、久蔵宅では物音を立てても、それは日常茶飯事で誰も気にしないそうです。如何ですか」
「ここから芝神明町まで、せいぜい二里か、半刻も在れば木戸が閉まる前に十分駆け戻れますね」
「はい、もし繁蔵の家にも押し込みたければ、一夜明けた所で押し込む手も在りますが、それは止めましょう。前回の船賃と今回の茶会代は繁蔵が久蔵に支払った金で足りるでしょう」
「それでは茶会の日を楽しみにしています」と碁四郎は駆け戻って行った。
それを見送った兵庫が、
「常吉さん、鬼吉さん。明日も引き続き見張りをお願いします」
「任せて下さい」
「私はこれから、段取りが変わった事を伝えに中之郷と駒形に行って来ます。

 中之郷養育所に入った兵庫は中川彦四郎、戻っていた矢五郎そして坂崎新之丞を広間に集め、変わった段取り、役割分担を伝えた。
その事は、受け入れられたが、厄介な問題が矢五郎から告げられた。
 それは東都組の頭・半蔵の死に合わせるように自殺した半蔵の母が残したものは半蔵が町家から軒賃として集めた金とその借入帳だった。
それを押収した定廻り同心の久坂啓介は軒賃集めの被害を奉行所に届け出る者が居なかったため、事件とせずに金を借入帳に書かれている人に公平に各町に分配するように駒形の町役に頼んだ。
残された金は借入帳に記載された金額の総額の七割程度だったため、各町の町役を集めた駒形の町役は七割分配し、借入帳に記載された内容を複写して渡した。
しかし、それが軒賃を取られた町家に戻されなかった。
「困っている駒形の町役に、久坂に代わり奉行所と関係の無いわしが小言を言ったよ」
「何と」
「東都組の頭・半蔵を斬ったのは鐘巻兵庫殿だ。いま半蔵の後釜に成ろうとするものが居るが、そいつ等を鐘巻殿と元東都組の者たちが力を合わせ取り除き町に平穏を取り戻そうとしている。それが終わったらどこの町役が悪党のままで居るか明らかにする。それが嫌なら十八日いっぱいに善人に戻れ。わしの名は斬られ彦四郎の親の中川矢五郎だ。と脅しておいたよ」
「たんなる脅しにはしませんよ。善人に生まれ変わろうとする者の邪魔をする者は許しません」

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Posted on 2017/06/01 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学