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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その32)】 

 十七日、十八日の両日、押上を離れて過ごすことに成った兵庫は、勘三郎と富五郎を見舞に二人の部屋を訪れ、そして尋ねた。
「明日、駒形で賊を迎え討つ前に、神明町の久蔵の家に押し込むのですが、久蔵の他に住人はどれほどいますか」
「家に居るのはお上さんだけですよ。広い家では在りませんので泊まるとすれ、突然の客ぐらいですよ。例えばここで雇った浪人とか・・」
「明日はその浪人たちと戦うことに成るのですが、皆さんは思わぬ邪魔が入り逃げました。浪人も逃げますか」
「今度は簡単には逃げないでしょう。恐らく報酬として私たちの小遣い稼ぎとは比較にならないほど高額を提示したでしょうから」
「高額な報酬と云う事は相手が手強いと云うことに成りますね。金を受け取って仕事をせずに逃げませんか」
「報酬は成功報酬で、前払い金は少ないです。それと逃げたと判れば町を歩けなくなります」
「ちなみに、討ち死にした場合は」
「子分でない以上、死に損です」
「先日、浦島で死んだお仲間は死に損に成って居ないのですね」
「身内が居ませんから、死に損です」
「もう一つ、捕らえられた場合は」
「捕らえられるような段取りを仕組んだ者にも類が及ぶでしょうね。所詮、金のつながりですから」
「大体は思っていた通りですが、確かめられたことは有益でした。有り難うございました。
「何か思ってのお尋ねでしょうが、人殺しを頼む者や、引き受ける者への酔狂はお止めになった方が宜しいですよ。私が言うのもおかしいですが・・」
「ご忠告、有り難うございます。お邪魔しました」

 留守を近藤小六に頼み、兵庫は浅草駒形に向かった。
竹町の渡しの様子を見、駒形の経師屋為吉の暖簾を潜った。
竹刀の音を聞きながら裏口から隣の継志堂に入った。そこには既に甚八郎と常吉が来て居た。
「何か動きは在りましたか」
「芝神明町の久蔵の家を出た浪人五人と案内人が陸路継志堂を下見に来、竹町の渡しを確かめ、その後浅草見物をしていますが三五郎が追って居ます」と常吉が云った。
「御厩の渡しには寄って居ませんね」
「はい、寄って居ません」
「山中さんの読み通りに成りそうですね」
 裏口から三五郎が入って来た。
「奴ら、繁蔵の手下と待乳山で合流し、吉原方面に移動しています。後は万吉が追って居ます」
「今日は素見(ひやかし)だろう」
「そんな所でしょう。ここに来る前に聞いた話ですが、刺客への手当ては成功報酬だそうで、浪人さんの懐は未だ秋風が吹いていますから」
「それでは、浪人が素見をしている間に、私と三五郎は久蔵宅を覗いてきます」
「新手が増えて居ないか、様子を見て来て下さい」

 居た者たちの話を聞き終わると、
「私は、今日明日、駒形に泊まります。これから乙次郎さんの代わりに稽古の手助けをしてきます」
「お願いします」
 道場に場所を変えた兵庫は乙次郎の防具を外させ稽古から解放させ、自らが着けた。
兵庫は稽古をしていた五人と稽古をして、その腕前から三人で一組と二人で一組の二組に分けた。
「これからは三人で一人、二人で一人の気持ちで戦う剣術を教えます。気を一つに合わせ相手に立ち向かえば、金で操られた刃は力を失うものです。おびえた方が負けです。そう信じて下さい。いいですね」
「・・・・」
「いいですね」
「・・はい」「はい」「はい」「はい」「はい」

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Posted on 2017/06/03 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学