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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その33)】 

 無理やり返事をさせた兵庫は、笑いながら
「それでは頭と手足を決めます。頭の役割は敵に最初に打ちかかることです。手足は間髪を入れずに打ち掛かるのです。それでは二人組の頭は久八さん、手は好太郎さんとします。三人組の方は頭を鎌之助さん、手足を小助さんと忠治とします。それでは息を合わせる訓練を三人組から始めます。どうぞかかって来て下さい」
 兵庫と三人が道場に残り二人が脇に離れた。三人が兵庫を北、東、西の三方から攻める立ち位置で構えた途端、兵庫が西へ走り、怯む忠治の籠手を叩き、北の鎌之助の竹刀を払いつつ、面を打ち、東から振り下ろして来る小助の竹刀を躱しつつ籠手を打った。
「今のは悪いお手本です。三人組にしたのは力を合わせて守るためです。敵を挟んで東西に分かれては助け合いが出来ません。敵を扇の要に置いたとして、守る側は扇を半開きした範囲に立ちなさい。相打ちの気持ちで立ち向かうのです。そうすれば腕が立つ者ほど戦うのを避けます。それで身が守れたことに成り、助っ人は思う存分働けるのです。さあ、もう一度」
 兵庫は何度か三人が息を合わせ立ち向か、個を捨て立ち向かえるようになるまで繰り返した。
そして二人組にした久八と好太郎とも何度も立ち合い、身勝手を捨てさせた。
「何とか出来たようです。最後の仕上げをしましょう」
兵庫は竹刀を置き、愛刀・源三を腰に差し戻って来た。
「明日の相手は竹刀を持っては来ません」
そう云い抜いた。
「この刀は、先日、半蔵を斬ったものです。他にも何人も斬りました。竹刀相手ならできても真剣相手では臆病が出てしまってはいけません。半分は慣れです。鳶が高い所を平気で歩けるのも慣れです。残りの半分は、人は少しぐらい斬られても死なないと云う確信を持って立ち向かう事です。その手本は斬られ彦四郎さんです。明日の相手は皆、金のために牙を向く者ばかりで、命を懸ける覚悟は出来て居ません。逃げ腰の刀で切られても死ぬことは在りません。それでは真剣に対しての心構えを伝授します。それは刀を見ずに遠望することです。目を凝らす必要はないのです。物の動きをいち早く知るためには遠望に勝るものは無いと私は思って居ます」
「遠望ですか・・」
「疑って居ますね、試しましょう。五人そろって私の前に立ってください」
兵庫はその五人向かい刀を構え
「見たくは無いでしょうが私の顔をよく見て下さい。見れば見るほど周りはぼやけます。しかし、ぼやけているにも関わらず、動くと分かるのです」と刀の切っ先を上げた。
「分かるでしょう。命を懸ける実戦では視野を広くするために遠望し、多くの敵の動きを察知することが大切なのです。目先の刀など見なくても、遠望する方が刀の軌跡が分かるのです。さあ、先ず三人で私に立ち向かって下さい」
三人は素直に成って行った。言われるままに兵庫の真剣の前に臆することなく立ち、兵庫の動きを待って居た。
「良いでしょう。お二人さんと交代して下さい」
二人も兵庫の意に叶った。
「もう、明日のために教えることはありません。自信を持たせてあげます」と云い兵庫は防具を外した。
「明日、戦うことに成るかもしれない浪人と、同じぐらい手強い相手を連れてきますので待って居て下さい」
と云い、道場を出て行った。
 戻って来た兵庫は竜三郎以下五人を伴っていた。
「竜三郎さん道具を着け、同時に三人を相手にして下さい」
「三人同時でも、一人ずつ立ち会うのと大差ないでしょう。皆、バラバラですからね」
防具を着け終わった竜三郎の前に三人が立ち、竹刀を構えた。
「どこからでもいい、掛かってこい」と竜三郎の誘いに今までなら勝手に打ち掛かるのだがそうはならなかった。
「臆病風に見舞われたのか」と挑発する竜三郎が詰め寄った。
「それでは私が」と鎌之助が云い、気合と同時に打ち掛かったのは小助と忠治を加えた三人だった。
鎌之助を打ちすえようと振り上げた竹刀に、守らねばの迷いが襲い、何も出来ぬままに竜三郎は連打されたのだ。
「それまで」
兵庫が叫び、そして続けた。
「本日、新規に雇われた浪人五人を含む者たちが継志堂を下見する姿が見られました。養育所が用意できる護衛は、継志堂に配置した根津殿と乙次郎さん以外に私、山中殿、常吉さん、鬼吉さん、合わせて六人です。相手を確実に倒し減らしていくには攻めなければなりませんので、万が一皆さんに自己防衛をお願いすることに成ります」
「万が一でしたら任せて下さい」と一番頼りない忠治が言った。
「忠治、お前の一撃が一番痛かった。明日も加減するな」と防具を着けていない二の腕を押さえた。
それを見て皆が笑った。

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Posted on 2017/06/04 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学