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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その35)】 

 その浪人たちの見張る役を待乳山で三五郎から引き継いでいた万吉が戻って来て、経師屋為吉の暖簾を潜り、道場の兵庫に声を掛け、裏口から継志堂に入って行った。
万吉が待つ奥座敷に兵庫、根津甚八郎、乙次郎、常八が集まった。
「万吉さん、お疲れさまでした。浪人五人を付けた三五郎さんから待乳山までのことは伺いましたので、その後に付いてお話しください」
「浪人たちのその後の動きにつきましては、先程浪人五人が継志堂に入ったこと以外、全くの見物で猿若町の芝居小屋巡り、と云っても中に入らず、掲げられた“まねき”を見上げるだけで通り抜け、あとはお決まりの吉原で素見(ひやかし)を始めました。そこで案内の若い衆二人と別れました。その後吉原町内を巡り、結局は羅生門河岸で線香一本が燃え尽きる間を楽しみ、戻って来て役目を思い出したのか継志堂に入ったようです」
「その後のことを常八さんお願いします」
「万吉さんの話を伺い納得したことが在ります。実は浪人五人が下見に来る前に二人のやくざ者が参ったのです。恐らく浪人と吉原で分かれた若い衆の二人だと思います。この者は傷薬を買う素振りを見せながら、その内の一人が通り庭を途中まで入り込み中を窺いました。そこで得た情報は二階へ上がる階段の位置ですが、その代償として根津様に叩かれ、切り薬代二分を支払い帰って行きました。後から来た浪人五人は金も持たずにやって来たので、その訳を聞いたら“金が出来たら明日にでも来る”と云って居ました。明日会ったら金が無くて買えなかった紫金膏とか五淋酸を用意して迎えることにします」
「それでは、鬼吉さんが暇を持て余しているでしょうから、話し相手に成って来ます」
と万吉は入谷へ出かけて行った。

 木戸が閉まる少し前に、入谷から戻って来た鬼吉と万吉、そして芝神明町から戻って来た常吉と三五郎がもたらした情報には守りの段取りを変えさせるような新しいものは無かった。
ただ、確かめられたことは戻って来た浪人五人が久蔵の仕舞屋に入ったこと。若い子分が出て去って行ったが、浪人が出ることは無く表戸が閉められたことだった。これで明日、浪人たちを見張る目を増やさずに済むことになった。
話しを聞き終わった兵庫が
「今日の寝ずの番は止めます。遅くなりましたが飯を食って寝ましょう」

 そして何事もなく嘉永六年九月十八日(1853-10-20)の明け六つの鐘の音を寝床で聞いた。
この日予定通りの動き始めたのは、芝神明町の久蔵の家を見張る常吉と三五郎、そして入谷の繁蔵宅を見張る鬼吉と万吉だった。
しいて言えば、相手が第一に狙っている竜三郎が、私はここに居ますとでも云うように、継志堂の二階から時々外を眺めることだった。
 兵庫としてやることは無かった。だが有り余る時が兵庫を内藤の所に向かわせた。
「内藤さん、頼みが在ります」
「何ですか」
「昨日、継志堂に来た浪人たちですが、かなり見すぼらしかったそうです。久蔵の家に入り易くしたいのです。押上に戻れば修行時代に着ていたものが在るのですが・・・」
「分かりました。私が板橋時代に着ていたかなり見すぼらしい物が在ります。雪に出させておきます」
「有り難うございます。午後出かける前にお借りします」
 兵庫と内藤が帳場で話をしていると、中之郷養育所から中川彦四郎の使い・心太がやって来た。
「鐘巻先生、中川様から、本日八つに奥様と子供たちが押上より中之郷にお移りに成られます。護衛のお役を承っておりました坂崎様が、荷が重すぎるので、駒形の警護の任と代わって頂きたいとのことで御座います。ご返事をお願いいたします」
「坂崎殿のご厚情、有り難くお受けいたしますと伝えて下さい」
「早速の、お返事を頂き有り難うございます。確かにお伝えいたします」
 使いの心太が帰って行くと、
「見すぼらしい着替え用意しますか」と内藤が笑いながら言った。
「自前の物を使います」

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Posted on 2017/06/06 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学