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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その37)】 

 表に最初に出て来たのは赤子の千丸を抱く志津で、その後に子供たちと寝起きを供にするようになった年寄りの近藤小六の母・綾と小六の妻・紗江の母・八木文が続いた。
皆、改まった物を着、身に付けていた。
 志津が兵庫の所まで来ると、兵庫は中之郷へ向けてゆっくりと歩き始めた。
列の後端が戸口を出るたびに、少し間を置き根津甚八郎の妻・お琴が、華やかな振袖に帯を文庫に結んだ女の子を引き連れ、出て来た。
その後は男の子たちだった。養育所の子たちは皆が武家姿で腰には抜けない模擬脇差を帯て、晴れがましい様子で歩いた。最後尾は挟み箱を担いだ佐吉だった。
これが養育所内で鐘巻家の一員として暮らしを共にする者たちであるが、そうではない菱屋の娘や倅それと絵師修行中の赤松又四郎らが子供たちの中に加わって居た。

 鐘巻家の後に続いたのは兵庫が修行時代から世話になった亀戸の元町名主の吉右衛門一家、当主の堀川源次郎と妻の道、そして吉衛門とふじ夫妻の四人だった。

 少し間を置いて、村上茂三郎を先頭に妻・縫と子の象二郎の三人、続いて栄吉が妻の花代と花代の子・蝶の三人、更に辰五郎が赤子恵介を抱く妻の染が続いた。
みな養育所とは縁の深い者たちだった。

 これが押上から中之郷に向かう第一陣だった。第二陣は十軒店で働く者たちが早仕舞いをして茶会に向かうことに成って居た。
 長く伸びた一行を、すれ違う者たちが見た。
見慣れた出仕する大名行列よりも人が多く、しかも華やかな老若男女の一行は人目を惹き、振り返らせた。
一行が業平橋に差し掛かると、見物人が一気に増えた。その中にはこの一行が中之郷の屋敷の茶会に行くことを知って居る者も居た。また地元の者は先頭が鐘巻兵庫で続く美しすぎる女がその妻であることも知って居た。
男は羨望の眼差しで、女はため息をついて見送った。
 一行が中之郷元町の通りに入ると、先に在る屋敷の大門が音を立て開けられた。
門前、向かいの店の前は人だかりが出来ていて、一斉に門内を覗き込んだ。
出向かいの者たちが並ぶ中から、武家の夫婦者が出て来た。
「出て来たお方が斬られ彦四郎様ですよ。やって来られる先頭が負けたことのない鐘巻様です。どっちが強いのですかね」と履物屋の玉三郎が周りの者たちに教えれば、
「鐘巻様の奥様のお美しいことは、それはもう・・・」と言葉を失う玉三郎の妻・しのぶだった。
やって来た兵庫に、彦四郎が
「鐘巻様、お忙しい中、茶会に奥様ともどもお越し頂き有り難うございます」
「彦四郎殿の快気祝いの茶会です。何を差し置いても参りますよ。出払っている猛者たちも彦四郎殿の武勇伝を伺いに月が出る頃には参ります」
少々芝居じみた大声での挨拶だが、それには訳が在った。
 そもそも茶会は賊に狙われている元東都組の者たちを堅固な中之郷の屋敷から手薄な駒形に追い出す口実として仕組まれた催しなのだ。賊たちを駒形におびき寄せ、伏せている護衛たちに捕らえさせる目論見なのだ。そのためにも茶会が確かに開かれる様子をどこかで伺う賊一味に見せると同時に、警護の者たちが中之郷集まっている様にも見せなければならなかった。

 出迎えの挨拶を済ませると、一行は門内へと入っていった。そして門が閉じられた。
座敷に上がった兵庫は堅苦しい物を脱ぐと持参した修行時代の色の褪せた物に着替えなおした。
「志津、中は見せられぬので外に音を聞かせて下さい」
「言われなくても、女子が腕前を披露してくれますよ」
兵庫は頷き、
「それでは、鬼退治に行って来ます」
 兵庫は裏口から出て駒形に向かった。その他は特に変わった道を通ることも無く吾妻橋を渡り、駒形に経師屋為吉の暖簾を出す店に入った。
そこには内藤と話をしながら兵庫が戻って来るのをまつ坂崎が居た。
「何か在りましたか」
「いや、偵察に行った者、誰も戻って来て居ません」
「中之郷への大方の移動は何事もなく済みました。野次馬が結構いましたのでその中に見張りが居たかもしれません。戻られもし門前の履物屋に客とは思えない者が居れば未だ見張っている。居なければ、もう見張りの必要は無くなったと割り切れるかもしれません」
「見張りの目的は駒形へ押し込むためと割り切らせてもらいます」
「こんどは遠慮は無用で結構です」
坂崎は笑い帰って行った。

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Posted on 2017/06/08 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学