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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その38)】 

 賊が継志堂に押し込むであろう時刻は四つ過ぎとの読みだが、万が一に備え明るい内から詰めているのだが、薬屋継志堂と隣の経師屋とを裏口を利用して行き来するだけで、警護を受け持った兵庫、甚八郎、乙次郎の三人は時の流れの遅さを感じさせられて居た。
 それは、芝・神明町の久蔵の家を見張る常吉と三五郎、入谷の繁蔵宅を見張る鬼吉と万吉にとっても同じだった。
 更に、贅沢な話だが、継志堂の二階から通りを見下ろすのは命を狙われている元東都組の者たちだが、怪しい者が姿を見せないと大あくびをしていた。

 時が経ち、夕七つ過ぎ食事の支度が出来、男たちは見張りを残して、食べ始めた。
調度その頃、耐えていた退屈から解放されたのは神明町で久蔵の仕舞屋を見張って居た常吉と三五郎だった。
 五人のやくざ者がやって来て一人が久蔵の家の中に入り、土間から奥に
「親分、お迎えに参りました」と声を掛けていた。
大した間を置かず姿を見せたのは久蔵と五人の浪人と色っぽい女だった。
「先生方、旨い料理屋にご案内いたします。ただし、酒は出しませんよ。楽しみは明日に取って在りますので、今夜は存分にお働き下さい」

 女が久蔵と浪人たちそして子分衆を送り出した。
「三五郎、久蔵も出かけるぞ。先生の読みが外れたようだ。それと日暮れ前に動くとは早いな。何処へ行くつもりだ」
「今度は根性を据えたようですね」
と話していると、久蔵が案内したのは隣の料亭・磯甚だった。
「なんだ。飯屋かよ。三五郎、奴ら暫く出て来ぬだろう。わしらも腹ごしらえだ」
と云い、二人が向かったのは神明社だった。
そして、二人は腰に巻き付けていた風呂敷包の中から弁当行李の中から、夕食分として残しておいた握り飯を取り出した。
 暫くして、腹を膨らませ、渇きを癒した常吉と三五郎は磯甚を見張れる所に身を潜めた。
久蔵等が磯甚から出て来たのは暮れ六つの鐘が鳴る少し前だった。
そして久蔵は店先で、北に向かう浪人と子分を見送り、己の家の中に入った。
「何でぇ、やはり子分任せかい。先生の読みは外れなかったな。三五郎、後をつけろ。俺は暫くここに留まり、駒形に戻る」
「分かりました」

 常吉は暫く久蔵の家を見張って居たが、人の出入りが無かった。常吉は駒形に戻る決意をした。兵庫への土産話しは、浪人を付けて行った三五郎が戻って居なければ、刺客の浪人五人と子分五人が神明町を出たこと、その後を三五郎が付けていることだが、三五郎戻って居ると大した土産話は無くなる。
 それでも戻ろうと決心させたのは、刺客十人が読みに反して明るい内に押し入る恐れも有るのでは、の思いが頭に浮かんだからだった。

 常吉が駒形に駆け戻ったのは六つを半刻過ぎた頃だった。
しかし、そこには刺客たちを付けて行った三五郎は戻って居なかった。
駆け戻ったことが一目で分かる常吉に、
「動きましたか」
「はい、浪人五人に子分五人が付き添い六つ少し前に神明町を出ました。行先については三五郎が追って居ます。私はその後しばらく久蔵の家を見張って居ましたが、動きが見られないので、刺客どものことが気に成り戻って参りました」
「駆け戻ったようですが、ここに着くまでに、先に出た者たちに追いつきませんでしたか」
「神田川を渡る頃には追いつくと思ったのですが・・・違う道を通ったのかもしれません」
「その様ですね。他に何か気が付いたことは在りませんか」
「他にですか・・・見た限りでは子分どもは皆出払った様です。刺客が神明町の家を出る時に、見送ったのは久蔵と女一人しか見当たりませんでしたから」
「これから久蔵宅に押し入る者にとって、それは有り難い情報です。もうすぐ碁四郎さんが参ります。予定通り行くかにしても、三五郎さんが戻るまで待ちましょう」
 碁四郎がやって来て兵庫が状況を話していると、入谷の繫蔵宅を見張って居た鬼吉が戻って来た。

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Posted on 2017/06/09 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学