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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その39)】 

 汗を掻きやって来た鬼吉は、皆が揃って居るのを見て、
「皆さん、常吉さんから、久蔵の所から浪人ら十人が出た話を聞いたと思いますが、奴らは繁蔵の家に一旦入りました。しかし上がらずに更に三人を加えて移動を始めました。
方向からして行先は吉原ではないかと思うのですが、確かめに三五郎と万吉が追って居ます」
「碁四郎さん、どう思う」
「十人以上を動かす段取りを変えるのは無理でしょう。奴らが先日、見聞していた竹町の渡しを使うと思います。遅くまで大人数を怪しまれずに、隠すのなら吉原に勝る場所はないでしょう。私は予定通り手薄な久蔵宅に押し込み、早々に戻り、やって来る刺客を迎え討ちたいですね」
「甚八郎、ここに何人残せばいいか?」
「予定通りで結構です。もし、相手が早くやってきたら、下手な加減をせずに迎え討ちます」
「それで良いです。それでは碁四郎さん、常吉さん、鬼吉さん、流れ星の支度は出来ていますか」
「皆が胸を叩いた」
 急ぐために四人は草鞋を履いた。
「それでは、後を頼みます」の声を残して、経師屋の店を出て行った。
 駒形と芝の神明町の距離は凡そ二里である。日頃から走っている四人は一刻(約2時間)で八里(約32km)を走るのは容易だった。二里を四半刻ほどで走りきり四人は神明町の久蔵の家の近くまでやって来た。
「皆さん、あの料理屋磯甚の手前の仕舞屋(しもたや)です」と常吉が教えた。
「灯りが漏れていますね」
「やくざな稼業です。早寝は出来ませんよ」
「私と碁四郎さんで、子分だった勘三郎、富五郎、総三郎の三人の名を出し、様子を見ます。奥に消えたら入り頭巾を被り呼ぶまで土間に控えていて下さい」
「分かりました」
「それでは碁四郎さん、宗十郎を被り、草鞋(わらじ)を草履(ぞうり)に履き替えましょう」
二人は持参した草履に履き替えると、慣れた手つきで宗十郎頭巾を被った。当時の侍が頭巾を被ることは珍しいことではなかった。特に悪所への出入りの時は被った。やくざ者の家もその悪所の一つだった。

 開け放たれている久蔵の家に足を踏み入れた兵庫と碁四郎は、誰も居ない、帳場であったろう板の間を見た。
「何とも不用心な家だな」
「兵さん、まともな者には、ここの入口に立ち入り禁止のお札が貼られて居るのが見えるのですよ」
「そう云う碁四郎さんには見えるのかい」
「兵さんと、同じですよ」
「やはり、招き猫が見えましたか」
「そこまでは見えませんよ」
「それでは見せてあげますよ」と云い、続けて
「御免」と大声を奥に向かって入れた。
出て来たのは、色っぽい女だった。
「拙者、名は申し上げられませんが、こちらの勘三郎、富五郎、総三郎のために多大なる迷惑を蒙りました。つきましては主(あるじ)殿と談判いたしたく参りました。お取次ぎを」
 名を上げた三人は間違いなく久蔵の子分だったが、今は皆、兵庫の管理下に置かれていた。しかし、そのことを久蔵はしらない。
兵庫の口上に困惑を隠せない女だったが、
「お待ちください」と云い、奥に引き下がった。
暫くして、少し酔った男が出て来た。
「私は久蔵と申す者です。私の知らぬ男、三人に迷惑を蒙ったそうですが、手前どもの者が他所で迷惑を掛けていることは、稼業が稼業だけに否定できません。参考までにお聞かせください。どうぞお上がりください」
と久蔵は兵庫が名を上げた三人を知らぬと否定したうえで、どのような迷惑だったのか聞こうと追い返すことをしなかった。
 兵庫と碁四郎が上がり、奥に消えると、常吉と鬼吉が家の中に入り頭巾を被り、土間に片膝を突き控えた。
 奥座敷に入るとわずかに酒の香がしたが、そのようなものは一切なく、上座に座布団が二つ置かれていた。
久蔵が下座にいち早く回り、兵庫と碁四郎を上座に着かせた。
女が茶を出し引き下がった。
「お武家様、手前どもにはお武家様に迷惑をお掛けするような者はいないはずですが・・どのような迷惑を蒙りましたか」
「その前に、勘三郎、富五郎、総三郎ですが、こちらとは無縁とのことでしたが、それなら、どのように処分しても差し支え御座いませんね」
「はい、無縁の者ですのでどのように扱われようと苦情を申す立場では御座いません」
「それを伺い安堵しましたので、どのような迷惑を蒙ったかお話します」
「お聞かせください」

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Posted on 2017/06/10 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学