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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その40)】 

 兵庫は出された茶を飲んだ。
「話は長くなりますが、知り合いが人を斬ったため、その使用人・十人が仕事を失いました。その者たちが再び悪党の生き方を始めぬように、また同業との縄張り争いから殺害されないように、陰ながら見守って居ました。ある夜、船宿浦島に賊三人が押し込み、十人を狙いましたが、賊は一人が死に、二人が大怪我をして今は、某所で養生中です。襲われた十人は斬られ彦四郎で知られる侍の屋敷に匿われ、更生を始め、迷惑を掛けた商家に謝罪を始めました。この動きが入谷の繁蔵と云うやくざ者に察知されたようです。そこで彦四郎殿は一計を案じ、屋敷を見張る者を誘き出し、総三郎と喜重の二人を拉致しました。ここまでの話は久蔵殿とは縁もゆかりもない?・・者たちの話に成りますが、話の都合でお話ししました」
「面白い話で、続きも聞きたくなりました」
「それでは続きを、忙しい中一人二人と拉致していては時を弄するだけ、そこで一網打尽にする策を考えました。それは相手が狙っている十人を警備の薄い駒形に追い出し、それに群がる者を懲らしめようとするものです。どうやらその策に掛かったようです。ここを出た久蔵殿、浪人五人と子分五人が隣で飯を食い、その後、久蔵殿をここに残し出かけました。出かけた先は入谷の繁蔵の家ですが、そこで三人を加え吉原方面へ出かけて行きました。その後のことは予測ですが、私たちの読み筋は・・」と云い兵庫は碁四郎を見た。
「それでは」と碁四郎も茶を飲んだ。
「私たちの読み筋は、浪人たちは吉原町内で時を過ごし四つの鐘で大門を出、山谷堀で小舟に分乗して竹町の渡しまで下り、駒形の薬屋継志堂に押し込むというものです。これに対して私たちが見ているだけと云う事はありません。明日の朝には体中にあざや瘤を作った浪人や子分さんが縛り上げられ、奉行所に引き渡されるでしょう。明日にはここにも奉行所の手が及び、縛り上げられた久蔵殿を見つけることになります。この筋書きが嫌でしたら取引に応じますが、如何ですか」
「・・・」久蔵は手の内を知られ過ぎていることに戸惑い、返答が出来なかった。
「早くしてください。私たちにはまだやる仕事が残って居るのです」
「・・・」催促にも、下手な動きは出来ないと沈黙を守った。
「保安方の皆さん」と兵庫が呼んだ。

 待たされていた宗十郎頭巾を被った常吉と鬼吉が入って来た。
「捕縛して下さい」
「女は」
「少し金を与え逃がしてやりなさい」
「分かりました。女にやる金を探せ」
「分かった」と鬼吉が家探しを始め、兵庫の背後の床の間へ歩み寄った。
そこには、かつて帳場で使わていたのだろうか重厚な箪笥が置かれていた。
「取引したい」と縄を掛けられ始めた久蔵が叫んだ。
「願いは何ですか」
「逃がしてくれ」
「千両です」
「せ・せんりょう・・それは無理だ、有り金全部で手を打ってくれ」
「良いでしょう。出して下さい」
縄を解かれた久蔵は兵庫の背後の箪笥前に座り、懐から鍵束を取り出し、鍵穴に差し込んで回した。
鍵が外れる音がした。
扉が開き、その中に引き出しが三段あった。
「有り金です」と云い、久蔵はその場を離れた。
鬼吉が引き出しを開けていった 
「どうだ」
「切り餅一つとばら小判しか入って居ませんよ。別の引き出しは銀です」
「刺客引き受けがこんなに安いのですか」
「それは半金で、もう五十両貰うことに成って居る」
「鍵束を持って居ましたが、何故他の鍵を使わないのですか」
「この箪笥はわしがあつらえた物ではなく、この家に鍵と共に付いて居た物で、わしが開けられたのはそこだけだったのです」
「久蔵殿、嘘は申して居ませんね」と碁四郎が念を押した。
「はい、この期に及んで嘘はつきません」
「この箪笥は舩箪笥と云って、からくり箪笥です。我が家にも在るので私が試してみます。ただし、開くとは限りませんので、時間が来たら先に戻って下さい」
「とんだ玩具(おもちゃ)が飛び出したものだ。あとは何とかするから気の済むまでやって下さい」
「こう云うの好きなもので」と云い、箪笥の前に座った。
そしてばらの小判を取り出し、
「久蔵殿、この二十両を女と折半で分け、今後の暮らしに役立てて下さい」と渡した。
「有り難うございます。早速渡してきます」

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Posted on 2017/06/11 Sun. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学