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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その41)】 

久蔵は受け取った金を持って別部屋に入った。
「お由、これを持って早く逃げろ、私はここに残ってもう少し様子を見ることにする」
逃がしてくれと取引を選んだ久蔵だったが、受け取った金、全額をお由に渡し、直ぐに逃げるのを止め、兵庫等が居る部屋に戻った。
そこには舩箪笥の開錠に取り込もうと箪笥を眺め触り、動かし傾けている碁四郎と、それを見守る兵庫、常吉、鬼吉の姿が在った。
戻って来た久蔵に碁四郎が
「久蔵さん、この箪笥を初めて開けた時、引き出しに何が入って居ましたか」
「いや、びた一文も入ってはいませんでした」
「引き出しに何を入れても構いませんが、この引き出しは帳簿や権利書などを入れる所です。重い金を仕舞うところはもっと下です。少し動かしてみましたが、重い物が入っている様子がします。傾けてもずれる音がしませんのでぎっしり詰まっているかもしれません」
碁四郎の言葉に、男たちは皆、同じことを思った。そして兵庫が、
「早く見せてくれ」と皆の思いを告げた。
「開けますので、皆さんは、私が良いと云うまで後ろを向いて居て下さい」
男たちはしぶしぶ碁四郎の言葉に従った。
男たちの頭を見ながら碁四郎は鍵穴を塞ぐ鍵蓋をずらし鍵穴を露出させた。
そして鍵束の鍵をその鍵穴に差し込んでは回し、回らなければ押し込む動作を、鍵を変えながら繰り返した。
碁四郎の読み通り、三番目の鍵の時、押し込むと鍵が更に入り込んだ。ばねを使った二段鍵の仕掛けがされていたのだ。回すと音がして開いた。
その音は皆に聞こえた。
「開いたのか」兵庫が聞いて来た。
「はい、もう良いですよ」碁四郎が応えた。
振り返った男たちの前で、碁四郎は引き出しを引き出した。
帯封ではなく、包まれ、表書きされた切り餅が姿を現した。
「切り餅だ。しかもそれは、恐らく享保小判だ」と兵庫が叫んだ
「何ですか、享保小判とは」常吉が尋ねた。
「この小判と大きさを比べてみてくれ」と先ほど碁四郎から受け取った切り餅を碁四郎に戻した。
碁四郎は箪笥の中から一つ取り出して、
「目方が全く違うぞ」と云い、今度は大きさを比べた。
「大きさもだいぶ違う」
「幾つ入って居ますか」
「四・五の二十の二段積みですから四十個」
ひとつ二十五両の切り餅が四十個である。
「千両か、しかも今の小判の二倍の価値だから、二千両近くにになるぞ。箪笥ごと持ち帰りましょう」
「久蔵さん、この箪笥の担ぎ棒は何処にありますか」
「担ぎ棒・・」
「私が知って居ます」と部屋の外から女の声がして姿を見せた。
「お由、まだ居たのか。それより担ぎ棒はどこだ持って来い」
「そこのお兄さん、手伝って」と鬼吉を呼んだ。
「親分さん、私が行っても構いませんかい」
「遠慮するな。カカじゃねぇ、行き遅れた娘だ」
「そう云う事でしたら、遠慮なく」

 箪笥に担ぎ棒が通されたところで、女が、
「私たちも匿(かくま)って下さい」
「匿う・・」
「一人千両で二千両、お渡ししたでしょ」と女は空々しく言った。
「いいでしょう」と兵庫が了解した
「急いでいるので、はぐれたら柳橋、浅草側の船宿・浮橋を訪ねて下さい。話をしておきます」碁四郎が在りそうなことを予測して伝えた。
話しが決まると顔を隠す中ではなくなるので、四人は宗十郎頭巾を脱いだ。
「常吉さん、鬼吉さん。その荷物は浮橋に届けて下さい」
と云うと、兵庫と碁四郎は店を飛び出していった。
その二人の背後から、
「お由、のろのろ歩くと木戸が閉まるぞ」
「そんなに年は取って居ないわよ」
と鬼吉の声に応えるが聞こえて来た。
どうやら今度の一番手柄は鬼吉だと思うと、駒形の戦場(いくさば)に向かう兵庫に優しさが戻って居た。
その後を追う常吉と鬼吉は千両が入った重い舩箪笥を担がされていて、前を行く兵庫の後ろ姿が遠のくのに苛立っていた。こっちは戦場に遅れて着くのが嫌だったのだ。
「鬼吉、この荷は浮橋までだ、加減せずに走るぞ」
「がってんだぁ、兄ぃ」
二人が足を速めると、お由も遅れまいと追う。
それに反し自堕落な暮らしをしてきた久蔵は既に息が上がって行った。
そこで辻駕籠を拾った。
小判は娘に全て渡したが懐には財布が入って居た。
「駕籠屋さん、柳橋、浅草側の船宿・浮橋まで急いで下さい。酒手は弾むよ」
「へ~い」

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Posted on 2017/06/12 Mon. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学