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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その42)】 

 神田川に架かる浅草御門は暮れ六つに閉じられている。兵庫は少し遠回りになるが碁四郎の都合もあるので、柳橋を渡り、川沿いを少し浮橋まで戻った。
「碁四郎さん、先に行ってます」と一言云い、店の前を駆け抜けた。
 碁四郎は店に入ると番頭の幸吉に
「もうすぐ常吉さんと鬼吉さんがお宝満載の舩箪笥を担いで来ますので、店の者を使い奥に仕舞い込んでください。それとお由と云う名の女、いや娘とその親の久蔵さんが来ますので泊めてあげて下さい。もし駒形へ行きたいと云ったら、木戸が閉まるので船に乗せて駒形沖から継志堂前で始まる乱闘を見せて下さい。決して陸(おか)に上げない様にしてください。利害関係者と顔を合わせると匿(かくま)えなくなるので」
「分かりました」

 暫くして常吉と鬼吉が舩箪笥を担いだまま暖簾をくぐり入って来た。
「幸吉さん、こいつを頼みます」と常吉が云い、土間に置いた。
「伺っています。後はやっておきますので、お急ぎください」
「すみません」と二人は出て行った。
 更にかなりの間を置いて駕籠と駕籠に付き添う爺さんがやって来た。駕籠に乗って居たのはお由だった。
久蔵は財布から一分銀を取り出しながら
「お由、早く下りなさい」
「鼻緒が未だすげ終らないのよ」
「遅い、そもそも、鼻緒が切れたぐらいで、年寄りのわしが乗って居た駕籠を奪い、楽をするようでは・・親子でなければ置いて来られたのに、情けない」
「旦那、その一分を下さい。木戸が閉まる前に戻りたいんです」
「そうでした。この下りない娘もおまけであげます」
「それは結構です。金の掛かりそうな女は分不相応ですから。それでは」
駕籠屋が駕籠を傾けるとお由が転がり出た。

 鼻緒が切れた下駄を持った女と爺さんが浮橋の暖簾を潜った。
「お由さんと久蔵さんですね。主から伺っております。足を濯いでください。直ぐに部屋に案内させます」
「それより駒形へ案内して貰えぬか」
四つの鐘が鳴った。
「今の鐘で木戸が閉まりますので、皆様には無理で御座います」
「それでは、竹町の渡しへ船を頼みたい」
「主から、船を出すのは構わないが、陸に上げてはならないと申しつけられて居ます」
「駒形沖から眺めるのなら許されております。皆さまを匿うためには利害関係者に姿を見られてはいけないと云う事でした」
「そこまで、気を使って貰って居るのか」
「はい、呆れております」
「それでは船を頼む」
「船賃は一両になります」
「一両・・」
「はい、いつ始まり、終わるのか分からぬ乱闘を見続けるためには、腕の良い屈強な船頭二人が必要なのです。大川の流れは早いのですよ」
「分かった。お由、一両頼む」
「私をおいて来なくて良かったね」
「金を全部渡した親心が間違いだった」
親子のたわいもないやり取りが終わると二人は船に乗せられ神田川を下り、大川に出ると上流の駒形に向かって昇って行った。

 木戸が閉まる前に駒形に戻った兵庫、碁四郎、常吉、鬼吉を留守をしていた男たちが囲んだ。
その中には、なんと茶会を抜け出した中川彦四郎親子、坂崎新之丞が居た。
「先ず、神明町の首尾は一切争い事は無く、相手の願いを受け入れ逃がそうとしましたが、結果は匿うことに成りました。刺客を派遣した者を匿う以上、刺客だけを懲らしめるのは片手落ちと思い、懲らしめますが赦し明日の朝には説得した上で解放したいと思って居ます。ですから、大怪我をさせない様に心がけて下さい。相手に同士討ちをさせないために暗くて狭い部屋の中で戦わず、居待ち月も出て居ましたので外に出て迎え討つことにします。命を狙われた元東都組の皆さんには不満も在るでしょうが、感情を押さえ、事件に成らぬようにお願いします」
「もとはと云えば私たちに半分の咎が在る話です。死人を出しては喧嘩と思われる恐れが在ります。得物を持つなら竹刀とし出来れば捕縛をさせて頂きたいです」
「鐘巻さん。押し入らせて戦うのではなく、外でとなると用意していたことに成り、このことを咎められる恐れはある。出来るだけ元東都組の当事者は出さぬ方が良さそうだな」
「分かりました。戦闘員は養育所の者だけにします。私、山中殿、根津殿、坂崎殿、中川彦四郎殿、常吉さん、乙次郎さん、鬼吉さんの八人とします。捕縄方頭を中川矢五郎殿にお願いし、継志堂の六人と三五郎さんと万吉さんに縄掛けをお願いします。元東都組の方々は経師屋の二階に控えて下さい。退屈でしょうから二階の障子を少し開け外を見て居て下さい」

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Posted on 2017/06/13 Tue. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学