05 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.» 07

洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カレンダー

【鐘巻兵庫 第98話 残月(その43)】 

 その後、兵庫は戦闘員を四班に分けた。
「先ほど四つの鐘が鳴りました。早ければ相手が山谷堀で船に乗る頃です。私たちも守備に就きましょう」
兵庫と常吉そして碁四郎と鬼吉が大川端の葦簀(よしず)小屋の影に潜み、甚八郎と乙次郎が継志堂内に坂崎と彦四郎が経師屋内に籠った。
矢五郎が率いる捕縛班は経師屋で刺客がやって来るのを待った。
また、全ての者に木刀と捕縄が持たせ、助け合う気持ちも持たせた。

 一方、吉原で四つの鐘の音を聞いた刺客等十三人は大門を出て山谷堀に向かった。
そして二・三人ずつ小舟に分乗して竹町の渡しに向かった。
一艘、二艘と舟が着くたびに下りた男たちは、打ち合わせておいた渡し場から少し離れた駒形堂裏に集まり、頭数が揃うと下見を済ませた継志堂へ向かった。
そして継志堂の前に十三人が集まり動きを止めた時、川端に潜んでいた四人が飛び出し背後から襲った。
あっという間に利き腕を木刀で打たれた。これで全ての賊が振り返り向きを変えた。だが打たれなかった者も込み入った中での抜刀を躊躇って居ると、継志堂から飛び出して来た甚八郎や乙次郎や経師屋から出て来た坂崎や彦四郎に背後から利き腕を打たれ、多くの者が刀を抜く間もなく、戦力を失った。
そして刺客たちが見たものは、押し入ろうとした継志堂ではなく、隣の家から木刀を持った男たちが次々と出て来て、囲みを二重にする様子だった。
「お聞きください。私は鐘巻兵庫と申します。いま皆様を打った八人は何処の道場に連れて行っても師範代が勤まる者ばかりです。これ以上の抵抗をすれば、縄目の恥を覚悟して頂きます。もし、武器を捨てて頂ければ縄の代わりに痛めた腕に膏薬を塗り包帯をしてさしあげ、二度とこのような真似はしないと約束頂ければ、明日の夜明けには解放することを約束します」
「私は元奉行所同心の中川彦四郎です。人様には斬られ彦四郎と呼ばれたことも在ります。鐘巻殿は悪い嘘はつかぬ人です。互いに恨みがある仲ではないのですから、争いは止めましょう」
「私は山中碁四郎と申します。本日夜五つ過ぎに神明町の久蔵親分宅に押し入り、全財産を頂くことでこれまでのことを赦しました。ですから、ここで戦って戻っても一文も貰えませんよ」
「一つ聞きたい」浪人の一人が声を上げた
「何なりと」
「茶会は嘘か」
「女たちに嘘を言ったら、暫く口を利いて貰えなくなります。真実です。私たちのような無粋な男は舞台を作るだけで喜んでもらいました」
「もう一つ。昼間には薬屋の二階に居た東都組の者が、この騒ぎに顔を出さないが、何処に居るのか知りたい」
「尤もです。皆さんの目を薬屋に引き付けるため、昼間は薬屋の二階に居て貰いましたが、夜は物騒なので隣の二階に移って貰って居ます」
「完全に出し抜かれている。わしは下りるぞ」と尋ねた浪人が言った。
「わしもだ」と残りの浪人が続いた。
「それでは俺の帰る所が無くなる」
「繁蔵親分の身内の方ですか」と兵庫が尋ねた。
男は応えずに口をつぐんだ。
「入谷には夜が明けたら押し入り、奉行所に突き出す代わりに、久蔵と同じく身ぐるみ一切を頂きます。その中から皆さん全員に一人五両をお渡ししますので新しい暮らしを始めて下さい」
「ここに居る十三人に五両ずつと云うと、六十五両に成りますよ。おい、あの繁蔵の家にそのような大金が在ると思うか」
「鐘巻様は悪い嘘はつかないそうだが・・・」とやくざ者が揚げ足を取った。
「嘘はつきません。押し入って得る金が足りなければ、身銭を切ってでも払います」
「身銭?・・」と賊らが兵庫を頭のてっぺんからつま先まで見た。
この時兵庫は、久蔵宅に押し入るため修行時代に着古したものを着ていた。姿は浪人そのものだった。
「口で言っても信用されないのなら、先程久蔵の家で手に入れた金二十五両を持って居ます」と懐の切り餅、一つを出して見せた。そして
「この金は繁蔵が久蔵に渡した半金で、もう半金は繁蔵宅に在るはずです」
しかし、やくざ者たちは信用できない様子で兵庫を見た
「兵さん。私が信用させてやる」と碁四郎が進み出た。
「それが出来るのなら、頼む」
「皆、大川に一艘の船が流れに竿を差し、留まって居るのが見えるでしょう。今呼びますから待って下さい」と云い、その船に向かって
「捨吉さん、銀太さん、近くまで寄せて下さい」
返事は無かったが船が岸に向かって近づいて来た。
「どなたか、あの船に乗って居るのが誰か分かる人が居ますか」

 ←ボタンを押して頂ければ励みになります。

Posted on 2017/06/14 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学