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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その44)】 

 のんきと云えばのんきな話だが、命のやり取りに来た男たちから。その毒気が消え失せ、川端に歩み寄った。
「あれは・・」
「久蔵親分・・」
「娘のお由さんも居る」
「鬼吉さん、怪我、していない」とお由が声を掛けてきた。
「ああ、大怪我をした者は今の所は居ないよ」
「今の所? 未だもめているの」
「信用して貰えないようです」
「すみませんね、育て方が悪くって。おとっつあんの責任よ」 
「みんなよく聞け、先程、鐘巻様、山中様、常吉さま、鬼吉様が我が家まで来ました。今度のたくらみに対し、わしらには指一本触れずに話し合いで済ませてくれた。持ち物一切を失ったが、その代わり新しい生き方を頂いたような気がしている。みんなも斬られても文句が言えない立場なのに、そうして生きています。悪いことは言わねぇ。死んだつもりでやり直したらどうだ。全うに生きようとすれば鐘巻様が手助けしてくれるよ」
「親分、解りました」
「皆、解ってくれて有り難うよ。鐘巻様、繁蔵にもお情けをお願いします」
「はい、子分衆を斬らずに済ませることが出来れば、繁蔵を斬る必要はなくなります」
 刺客としてやって来た男たちに動きが生じた。
最後まで抵抗を見せていた繁蔵の子分の一人が、脇差を鞘ごと抜き近くに居た常吉に差し出したのだ。この動きが全員に伝播していった。

 武装解除した男たちの内、怪我をした浪人五人とやくざ者三人はひびが入って居るかもしれない利き腕に治療が施され、首から吊った。 
そして、無傷の者が待って居る開けっ放しの道場に連れて行かれた。
広くもない道場に大人数が集まって居た。
東の母屋側には兵庫をはじめとする戦闘部隊に内藤が加わり、対面する西側の中央には久蔵らが、南側には匿われていた元東都組の者、北側には主に継志堂の者たちが座った。
そして道場の中央で蕎麦を打つ乙次郎を見ていた。
そこには食欲を誘う匂いが流れて来ていた。
「たまらぬ」と言ったのが久蔵だった。
匂いが流れ出す台所では、そばの出汁を作る鬼吉が居て、それを見ているお由が居た。
「このようなことに成るとは思って居ませんでしたので、今暫く、膝を崩し蕎麦が出来るまで、雑談でもしながらお待ちください」
「鐘巻様、伺いたいことが在ります」と久蔵が口火を切った。
「何なりと」
「船宿・浦島で斬られて死んだ正一のことは分かって居るのだが、我が家にやって来た鐘巻様より聞かされた勘三郎、富五郎、総三郎のことを、勢い無縁だと云ったが三人のことが気に成って居る。どうなったのか教えて貰えませんか」
「浦島に押し入った勘三郎さんと富五郎さんは私たちの名を聞き、目的を果たせずに逃げました。二階から飛び降りたため骨折し捕らえられました。いまは押上の養育所で子供たちの世話に成って居ます。総三郎さんはもう一人繁蔵さんの子分・喜重さんと中之郷の屋敷を見張って居た時、あちらの竜三郎さんを餌にして誘き出し、逃げ場のない道に誘い込み、私と常吉さんで挟み撃ちにし得物を常吉さんに叩き落され捕らえられ、今は中之郷の屋敷で暮らしています。三人の皆さん戻れないと思って居ますので、養育所で働いて貰う予定です」
「それを聞き安堵いたしました」

 雑談で出た話は多岐に渡ったが、何かにつけて養育所に絡む話が多かった。
少しばかり様子の違う道場を見回していた者が、柱に墨書された名を見て、
「どの柱にもやくざ者の名が書かれている」と呟いたのだ。
確かに道場の四本柱には、浅草 新門辰五郎、千住宿 名栗屋鉄五郎、越谷宿 福寿屋勝五郎、草加宿 千疋屋十兵衛の四人の名が書かれていたため色々と詮索された。
鐘巻の名がやくざ仲間に恐れられる元となる、新たな出来事が在ったことを知らされたのだ。
男たちの好奇心に火が付くと、そもそも金のかかる養育所を何故始めたのだとなった。
それも話を聞いていくと血の匂いに懺悔するのか、今年の冬で一年が経つ、死んでいった額賀等の墓参りに皆で行く話しで締めくくられた。
しかし、やくざ者の好奇心だけで話は終わらなかった。
完成品とは思えない中途半端な状態の道場に話が及んだのだ。
それに対し兵庫から、半蔵を斬ったことで道場を駒形から中之郷へ移築することになり解体を始めたのだが、皆さんの御蔭で解体作業に手が掛けられなくなったとぼやいて見せたのだ。
すると、移築を遅らせる原因を作った男たちが、手伝わせてくれと願い出たのだ。
男たちは夜が明近くまで、眠ることなく話し続けていた。

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Posted on 2017/06/15 Thu. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学