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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第98話 残月(その45)】 

 嘉永六年九月十九日(1853-10-21)夜明け少し前、兵庫が
「これから私と山中さん、常吉さん、鬼吉さんで入谷に行って来ます。私たちが皆さんを捕らえたことを分からせるため繁蔵の所から来た御三方の名を聞かせて下さい」
三人はもう抵抗しなかったというより協力的ですらあった。
それぞれが名を島吉、圭次、空太と名乗った後、島吉が
「俺の脇差を持っていけ。親分から貰った物で誰にも触らせたことがないことを知って居るから、役に立つかもしれない」
「それは助かります」
常吉が預かった脇差を持って来て確かめると、腰に差した。
「そろそろ賄いのため女たちがやって来ますので」と断り、兵庫は
元東都組の十人に経師屋の二階で、刺客としてやって来た者には継志堂の二階で、但し、久蔵さん親子は表座敷で仮眠をとるように命じた。
坂崎と乙次郎には継志堂で警護を頼み、そして首尾を伝えて貰うため中川親子を中之郷に、根津甚八郎を押上に戻した。
そして後のことを内藤に頼み明け六つの鐘が鳴るのを待たずに駒形を出た。
鐘が鳴るまでは木戸を通らず裏道を進み、鐘が鳴った時には既に入谷近くまで来ていた。
「先生、あの未だ戸の閉まって居る家です」
「たいした錠は掛けていないでしょう。押し入りましょう」
案の定、戸に設けられた落としも不完全で少し持ち上げると戸が開いた。
中に入ったが宗十郎頭巾は被らず、有明行灯の灯が漏れて来る部屋に近づくと灯りが消えた。そして朝の支度をするためか女が出て来た。驚く女に、
「乱暴はしません。繁蔵さんと話をし、直ぐ帰りますので奥さんも部屋に戻って下さい」
「私は繁蔵さんの妻では在りません。賄いで雇われている者です」
「繁蔵さんの部屋は何処ですか」
「一番奥です」
「その部屋には女の方が居ますか」
女が頷き「でも奥様ではありません」
「娘さんでもありませんね」
「お妾さんです」と女は笑って答えた。
「それでは、あなたは、いつものように賄いの仕事をして下さい」

 奥の部屋に行き、障子を開けると、布団が二つ敷かれていて一つが動き、兵庫を見て声を上げた。
「親分さんに用が有って来ました。あなたには用は在りませんので暫く部屋を出て頂けませんか」
女は身繕いをすると着替えを持って部屋から出て行った。
少しばかり音を立てたのだが、繁蔵は目覚めなかった。
「常吉さん、鬼吉さん家探しして下さい」
鬼吉は床の間に置かれた繁蔵の刀を腰に差し、床の間に置かれた入れ物を、常吉は押入れを開け、置かれている入れ物を調べ始めた。
金の在り場所は直ぐに分かり、床の間の文箱の中の金はそのままに、押入れから取り出された金・凡そ二百両は風呂敷で包まれ、常吉の腰に巻き付けられた。
「それでは繁蔵を起こして下さい」
鬼吉が繁蔵の枕を蹴飛ばした。
だるま落としよろしく頭が落ち、繁蔵が目を開けた。
見慣れぬ男、しかも四人に見下ろされているのに気づき、起き上がろうとしたが掛け布団を踏まれて居るため身動きが出来ず、
「誰だ!」
「鐘巻兵庫と申します」
名を聞き男は開いて居た目を閉じたが、意を決したのか開け
「鐘巻様、何の用でしょうか」
「常吉さん、腰の物を見せてあげて下さい」
常吉は腰の脇差を鞘ごと抜き、鞘の湖尻近くを持って繁蔵の上にかざして見せた。
「そいつは・・・」
「はい、島吉さんから借りてきた物です。押し込みが不首尾に終わった証です。十三人全員を捕らえました。内八人が打撃を受け怪我をしましたが一滴も血は流さずに済みました。先ずはそのことをお伝えしますが、何か疑念が御座いますか」
「疑念を通り越し、信じられぬ」
「それは私も同じです。これほどこちらの読み通り行くとは思っても居ませんでした。この先の読みですがお話ししましょうか」
「出来れば寝ながら聞くより起きて聞きたいのだが」
「失礼しました」
布団を踏んでいた足が無くなり、久蔵が起き上がると、兵庫等四人が座り対座した。
「先ほど申しましたように、死人が一人もなく奉行所に届けを出さずに済む程度の事件で済みそうですが、十三人の皆さんにはそれぞれ恥辱を味会わせてしまいました。この事件を引き起こしたのは私たちの調では繁蔵殿と認識しています。昨夜以前に起きた船宿浦島では一人が死にました。実はその他に二人が大怪我をしたため私どもで治療をし、匿って居ます。更にもう二人も元東都組の竜三郎を襲おうとしたため懲らしめた上、匿って居ます。いま惰眠をむさぼって居たのは繁蔵殿です。私はあなたが改心し我らに与えた損害を弁済する意思を表せば、奉行所に渡すことをせず赦すことにします。参考までに脅しと思って頂いても結構ですが私の兄は南町奉行所与力の鐘巻で御座います」

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Posted on 2017/06/16 Fri. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学