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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第100話 共喰い(その6)】 

 勝五郎が日光街道を北へ帰って行ってから暫くすると、千疋(せんびき)屋から一人、十兵衛が出て来た。十兵衛は迷うことなく道を斜めに横切りながら茶店にやって来た。
「あれ? 皆さんは」
「三人は、勝五郎の後をついて行きました」
「仕事にあり付こうと思って居るんですかい」
「勝五郎の仕事はもうやりたく無いです。次にどんな悪さを企んでいるのか見に行ったのですよ。十兵衛さん、苦々しい顔をしていますが、無理無体を言われたようですね」
「ああ、勝五郎はわしを子分としか見て居ない。今までは借りがあったので我慢してきたが、奴の尻拭いをしたから今からは対等だ」
「尻拭いさせられたのですか」
「今回のことはわしが企てたことだそうだ」
「なぜそうなったのですか。わしら五人を雇ったのは勝五郎で、十兵衛さんはわしらに鐘巻兵庫が誰かを教える役目をしただけなのに」
「捕らえられてしまい、正直に言えばよかったものを、わしは勝五郎の名を出さず自分の企みだったことにした。これを勝五郎が気に入ったのだろう。捕まったわしの不手際が一番悪いと言い張ったよ」
「何も弁解をしなかったのか」
「したよ。捕らえられたのは不手際と云えば不手際に違いない。しかし、同時に皆さんら五人も捕らえられていたがこれはわしの不手際ではないとね。捕らえられたわしは、仁義を貫き鐘巻殿を襲わせたのは勝五郎であることは話さず私が引き受けたのだ。もし、わしが捕らえられずに戻って居たら、捕らえられた皆さんが真実を話しただろうと弁解をしてみたが、皆さんが勝五郎を売るはずがないと怒り、聞き入れる様子を見せなかった。だから不満だが責任を引き受けたのだ」
「勝五郎は思った以上にごつい男だな。わしらは金を得るため、生きるために人殺しを請け負った。生きるためなら勝五郎に頼まれたと真実を言うよ」
「今思えばわしの不手際は皆さんの案内を引き受けたことだった。事が失敗したのだから得るものが無いのは仕方がないが、事が成就したとしても何も得ることは無かっただろう。それが分かったのが今回の収穫だった」
 十兵衛の話をひとまず聞き終わると、額に包帯をした浪人が
「十兵衛さん、ところで聞きたいのだが、潜んでいるわしらに合図をするのが遅れたのではないか」
「それは後詰をされて居た方が戻ったら確かめて欲しいのですが、私が脇差を抜き合図をした時、一番早く動いたのは鐘巻様でした。皆さんとすれ違った時、歩いてくるはずの鐘巻様は走っていたでしょう。私の合図を鐘巻様も見て、狙われているのに気づき、前を塞がれる前に走り抜けたのだと思って居るのですが」
「いや、疑って済まなかった。あの後、鐘巻殿は我らを誘い、気が付いたら逆に挟み撃ちにされていた」
「お陰で生きて帰れた訳だ」と相棒が笑った。
「それも相手が、わしらより一枚も二枚も上だったお陰だ」
「わしらは、数日の内に江戸に戻り、見聞きしたことを土産に鐘巻殿に改めて許しを請い、お仲間に加えてもらうつもりです。わしはここに残る十兵衛殿が心配だ」
「そう思いますか。まともな出入りでは勝てない相手だからな・・・」
「勝五郎と取り交わしたという念書のことですが、不慮の際には相手の財産を引き継ぐと云う事は真実ですか」
「はい、噓は申しておりません」
「勝五郎は恩ある鐘巻殿をわしらに狙わせた。十兵衛殿が兄弟分の勝五郎を疎ましく感じるのなら、きっと勝五郎も十兵衛殿をと思うはずです。まともに戦えないのなら、勝五郎のような手を先に使ったら如何ですか」
「手伝って頂けますか」
「私たち五人は、鐘巻殿の弟子もしくは雇人になるつもりです。そのためには人を殺めることは避けなければならないと教えられました。ですから、勝五郎を倒すことは容易(たやす)いことですが、手伝うことは出来ません」
「教えられた、誰に?」
「もう直ぐここに戻ってきます」

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Posted on 2017/08/19 Sat. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学