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洗心湯屋

日本一長い、時代小説を目指しています。

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【鐘巻兵庫 第99話 標的(その35)】 

 朝駆けから戻って来た子供たちはすぐに剣術の支度を整え、道場に向かい稽古を始めた。
道場には時が経つにつれ稽古に来る者で溢れていった。
 昨日の話では新しく来た者たちは三隊に分かれ、交代で稽古に行くことに成って居たが、見た目では全員がやって来ていた。
これは三隊の構成を、以前から居た者も含めて決めた彦四郎が、御用ある者を除き、朝稽古には隊に関わらず誰が行っても良いと言ったことによる。
このことはいつでも稽古が出来る子供たちには好意的に受け取られ、自分たちの稽古は早めに切り上げ、と云うより、腕前拝見と見物に回ったのだ。
この気遣いは男たちにとって、ありがた迷惑なことでもあった。実は、男たちにとって押上には行きたい訳が他にもあった。昨日見た鳥追い姿の残像が導いたのだった。
 道場に最後に姿を見せたのは中川矢五郎で、稽古をする兵庫を見ていた。
矢五郎が用が有って来たことは何となく判った兵庫だったが、兵庫を目当てにやって来た特に新人との初めての稽古が優先された。
結局、兵庫の稽古は新人全員にその強さを体で覚えさせたところで終わらせた。そして、
「新しい方々の剣術の道具は隊別にまとめて廊下に並べて置いて下さい」
と、云い矢五郎の所へ向かった。
「お待たせしました」
「頼みが在ります」
「何でしょうか」
「倅から、一人付けてくれると聞いたので無理を言いに参りました」
「お目当ての人でもいるのですか」
「そう云う事だ。弥一に頼みたいのだが、片思いのような気がするので頼んで貰えぬか」
「弥一さん自身は問題ないと思いますので頼んでおきます。問題はお願いしている十軒店に穴が空きますので、代わりに二人選んで寄越して下さい。道場建設の代わりに番店をさせながら仕入れの勉強をして貰います」
「どの店をやらせるのですか」
「弥一さんは万屋と呼ばれている方です。十軒店の万屋と云えば・・」
「雑貨屋だな・・」
「志津が弥一さんに、鳥追い笠をいくつ、お願いしますと言えば、その日の内に調達してきたそうです」
「分かった。その二人を今、ここで決める」
と云い立ち上がると、
「道具を脱いだ新人はここに並びなさい」と大声を出した。
この声に新人たちは少しばかりしり込みを見せた。と云うのは矢五郎は中之郷の主・彦四郎の親で元奉行所同心であるからだ。元やくざ者にとっては天敵だった頃の習性が出てしまったようだ。
「ここ押上、表の十軒店の雑貨屋が手不足になると奥様から話があった。人数は二人と少ないが商いを勉強してみようと思う者は手を上げなさい」
「はい」「はい」「はい」「はい」と四人が手を上げた。
「鐘巻さん、四人ですが如何致しましょうか」
「最初に手を上げた、空太さんと金吉さんに雑貨屋の勉強をお願いします。残りの二人については、もし威勢の良い魚河岸やヤッチャバで仕入れ、売る、所謂棒手振りですが、大食いの皆さんが増えましたのでこちらも間に合わなくなって来ています。やってみる気が在るのならお願いします」
「やります」「やります」と声を上げた。
「それでは、と伊佐次さんと忠治さんお願いします。今、手を上げて頂いた四人の方々は食事を摂ったら来て下さい。道場の再建の仕事が出来ないのは残念でしょうが、これからも何軒も建てるつもりですから、その時を待ってください」
 この時、廊下に姿を現した志津が男たちに笑みを浮かべ頭を下げた。志津は全く別の用が有って部屋から出たら男たちと目が合ったので、挨拶をしただけだが、特に四人は自分たちに頭を下げたと感じたのか、頭を下げ返していた。

 部屋に戻った兵庫は志津に矢五郎が来てからのことを話した上で、弥一や四人のことを頼み、自身は四人に会うことも無く駒形経由で入谷、そして芝神明に行くと告げ、出かけて行った。

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Posted on 2017/08/02 Wed. 04:01 [edit]

thread: 花の御江戸のこぼれ話

janre 小説・文学